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I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■高橋徹也『夜に生きるもの/ベッドタウン』発売20周年記念再現ライブ
二枚のアルバムを続けて聴くと、歌詞のつくりだけではなく楽曲構成が兄弟みたいなところがよくわかって興味深かった。「ナイトクラブ」と「シーラカンス」、「チャイナ・カフェ」と「笑わない男」、そして勿論「真っ赤な車」と「かっこいい車」。「曲のストックがなくなった」という程追いつめられた状況から生まれたものなのかもしれないが、今では高橋徹也というアーティストの歴史としてみることが出来る。詞で描写されるのは夜と郊外の風景。これは高橋徹也というアーティストが持ち続けている世界。映像喚起力の強さはずっとあるけど、今回それに加えて聴き手の記憶を書き換える力みたいなのがあるなあと感じる。自分の記憶ではないのに、それを実際見たことがあるような気にさせる。暗闇のなか、手探りで冷蔵庫を開けたのはホテルだった? デパートの屋上で見たアドバルーンは赤かったっけ?……恐ろしいことです(またいう)。
「ぶっちゃけ売れていないアルバムですよ」。「ディレクターに今年は二枚出すぞっていわれてもう必死で」「曲のストックも使い切って。こんなこと初めてだった」「正直あの年の記憶が殆どない」「翌年にもう一枚、ということにしておけば俺、メジャーにあと一年いられたんだなと思いました(笑)」。なんでもデビューアルバムを出したあとくらいに、アンケートか何かに「なんちゃって○○○○」と書かれたことを今でも悔しく思っており、それもあってか二枚目はこんなものに……みたいなことをいっていた。それでもついてきてくれたひとには感謝したい、とも。ご本人面白おかしく話していたし、フロアは大ウケだったし、こうして話すことが出来ているのは自分のなかで消化しているからこそでしょうが、「なんちゃって○○○○」の話は今でも憤懣やるかたない様子でしたね……やわらかく書いてますが、実際はもっと激しい言葉を使ってましたし。いやーいちばんいったらあかんやろそれ、という言葉だし名前だよね。誰も幸せにならないよ……。そのことがバネというか反動となって生まれたのが『夜に生きるもの』となれば、そう書いたひとに感謝か? いやいや、そのことがなくてもきっと怪物は生まれたに違いない。
「『再現』って、現役で活動してるひとが一番使っちゃいけない言葉ですよね。この二枚のアルバムは目の上のたんこぶというか、ずっと乗り越えなきゃいけない存在だと思ってて……今日はそれを少しは超えられたかな」。
本編ラスト の「犬と老人」では、ライヴが終わる名残惜しさと、再現を見届けられたという安堵と、そして勿論この曲の持つ繊細で壮大な世界に、自分がいた周囲の男女問わず揃って涙ぐむ(思わず見渡してもうた)始末。アンコールはその余韻もぶっ飛ばすアッパーな二曲。オーラスが最新曲「友よ、また会おう」だというのがまた最高。これがまたストレートなロックナンバーでグッとくるんです。格好いい。
ポピュラー・ミュージックの美点は、当人が当人にしか出せない声と演奏をリアルタイムで聴いていける(アレンジの変化含)ところ。珠玉の新作は増えていく一方なので悩ましいだろうが、当人の体力、気力と「今がそれをやるときだ」という思いが合致したらいくらでも実演してほしい。そしていつか当人も、当時の聴き手もいなくなったとき、その録音物(楽譜でもいいのだ)とともに遠くの時間にいるひとびとに迄彼の音楽が届いたら。その時代の声や演奏で鳴らされることがあったら、どんなに素敵なことだろう。そのとき彼の楽曲は、ポピュラー・ミュージックと呼ばれるのだろうか。
高橋さんのデビューアルバムが『POPULAR MUSIC ALBUM』というタイトルだというのはつくづく象徴的だ。出来すぎている、と感じるくらい。私は当時のことは知らない。どういった思いでこのタイトルにしたのだろう。
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セットリスト
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Opening SE:Night Creatures
『夜に生きるもの』
01. 真っ赤な車
02. ナイトクラブ
03. 鏡の前に立って自分を眺める時は出来るだけ暗い方が都合がいいんだ
04. 人の住む場所
05. 夕食の後
06. 女ごころ
07. チャイナ・カフェ
08. いつだってさよなら
09. 新しい世界
10. 夜に生きるもの
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『ベッドタウン』
11. テーマ
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10月28日(日)
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