ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『よみちにひはくれない 』浦和バージョン
神崎くんの後を追って歩く。神崎くんと別れ、先回りの道を行く。お寺の奥に猫が一匹。あ、と思っていると、その先の路地裏にもう二匹。人間たちがぞろぞろと入り込んできたので、大慌てで隠れ場所を探している。お邪魔しますね。案内人は観客を誘導し乍ら、この二十年で変わった浦和の街並みについて、この地を離れる迄の神崎くんについて教えてくれる。街と神崎くんを慈しむような優しい語り口。彼女はただの案内人なのだろうか? 語り手らしくひっそりとした気配だが、どうにも気にかかる。なんとも美しい姿なのだ。顔の造作だけでなく、表情も、声のトーンも。以前はだんご屋さんだったという雑貨店へ着く。ゴールドの田内一子がすらりと店内から出てきて迎えてくれる。あはは、田内さん、地元で本当にこんなお店を開いていそうな馴染みっぷり。流石だ。靴を脱いであがらせて頂く。とても急な階段(昔の家にはよくあった!)をのぼると、畳敷きに座布団が敷いてある。
現実と虚構(妄想)、あるいは此岸と彼岸の谷間にいることに、観客が気付く瞬間が二度ある。神崎くんの同級生である女性が既に故人であると明かされたとき、時計店の「先輩」がばあちゃんについて話すときだ。ここで観客は、案内人がその同級生なのではないかとハッとする。神崎くんの背後を歩く黄色いシャツを着た老婦人が「ばあちゃん」ではなかったときの不安が、先輩の言葉で確実なものとなる。
初演では、青年と老人の他は街の住人に自分の役割を演じてもらう(菅原さん曰く「自分の役を自分で演じるのだから、その道のプロ」)という構成だったそうだ。今回登場した「案内人」、つまりその街のガイドであると同時に、観客を演劇の世界へといざなうガイドの役割も果たした彼女の存在はとても大きなものだった。そして、不在である「ばあちゃん」もだいじな登場人物だった。神崎くんは案内人と、じいちゃんはばあちゃんと、街を通して対話する。思い出の地を巡ることで妄想の世界にいる老者を探しだし、記憶を辿ることで死者と会うことが出来る。タイトルにもなっている「よみちにひはくれない」をじいちゃんが口にするとき、神崎くんと同様に観客は少し力を抜いて微笑む。街を徘徊しているのは自分たち。とっくに日は暮れている、だからゆっくりしていこう。焦らず、急がず。シャッターの内側から聴く祭囃子とじいちゃんの歌声は、深く心に沁み入りました。
演劇はそのとき、その場だけのもの。この作品がいろんな街で上演されていけばいいなと妄想する。この公演に気付くことが出来てよかった、観る機会を逃すことがなくよかった。消えていく場所と時間を追いかける観劇は旅に似ている。
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・メガネのパリミキ店内に入る場面もありました。勿論営業中。ネクストの堀源起演じる店長と、ホントの店長の会話(おそらく堀さんがアドリブで話を振っている)が面白くて、クスクス笑い乍ら出た。菅原さん曰く「店長、だんだん演技するようになってきた」。偶然居合わせたお客さんもいて、事前に説明は受けていたようだけど上演中は明らかに緊張感が漂っておりました(笑)
・ちなみに前の回では、アパート階上で神崎くんが「ばーちゃーん」と大声を出すシーンの目の前で電柱を工事中だったそうです……観客は通りから神崎くんを見あげる形だったけど、彼の目の前には電柱にのぼっていた工事のひとがいたと(笑)それも観たかった……
・当日パンフレットには案内人・堀さんによる『今日神崎くんが歩いた道』イラストマップが。かわいい。あの子が愛した故郷だね
・ネクストのメンバーによる現代劇、これからも観ていきたいな。ホントに魅力的な集団だから
・観客のなかには来週上演の『BED』の作・演出を手掛けるデービッド・スレイターの姿も。同行の通訳さんがリアルタイムで英語に訳して台詞を伝えていました。こういうのも楽しかったな
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09月22日(土)
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