ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『すべての四月のために』
理髪店のかまえには『パーマ屋スミレ』(初演、再演)を思い出し、つい親しみを覚えてしまう。そこで働くひとの所作に見入る。何十年も前からそこで生きているように存在する登場人物たち。えっ、ここで笑い入れてくる? と戸惑う一歩手前でちゃんと笑わせてくれる演者のアンサンブルも絶妙。山本亨演じる理髪店主が熟練の技、一触即発のあのシーンで「日記に書くか!」といえるキャラクターは貴重(その分終盤の涙のシーンは胸に迫る)。それを受ける森田剛のすっとぼけた言動がまたいい。森田さん演じる人物、結構なダメ男なんですが、それでもどうにも憎めないように仕上がってるとこもすごいよね……。で、なんでこうも憎めないのか気になってしまうという魔の魅力(笑)。日記を残し、それが読まれたことで、彼の義母は安らぎを得ることが出来、息子は未来が明るいものなのだと信じることが出来る。そんな仕事もある。

つかれたつかれたが口癖の次女(臼田あさ美)には結構イラっとさせられるんですが、それをひとことでひっくり返す三女(村川絵梨)のあっけらかんとした強さ、衝突を避ける長女(西田尚美)のおおらかさ、末っ子らしい受け流しで場をおさめてしまう四女(伊藤沙莉)と四姉妹のコンビネーションも素晴らしかった。村川さん、気風がよくて格好よかった! 伊藤さんの声もよかったなあ。彼女の声であの「乾杯」はより心に響いた。そして母ちゃん麻実れい。何度も観ていて知っている筈なのに、あの立ち姿の美しさにははっとさせられますね……その美貌をもって肝っ玉母ちゃんのキャラクター、その肝っ玉の顔がはがれ落ちる局面の落差。通る声とゆったりとした所作で心に残りました。

個人的には近藤公園演じる日本人将校にやられました。鄭義信作品における「水の男」ですね。西田さん演じる長女に足を洗ってもらうシーン、艶がほのかに匂いたついいシーンでした。それにしても足にかかる負担は大きかろうな……それは西田さんもそうかと。しっかりケアして無事千秋楽を迎えられますように。

11月25日(土)
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