ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『夫婦』
死んでしまったから仕方がない、あいつがいなかったら俺は生まれなかったことになるし。認めるしかない。俺(というより、彼と数十年をともにした母親だろうか)の人生を肯定したい。しかし葛藤は消えない。だから岩井秀人は舞台上で三人の人物(岩井秀人役、小岩井秀人役、岩井秀人本人)となり、作家として複眼的に父親とその家族を見ようと試みたのではないか。取材を進めてみればそれなりに楽しい時間もあったようだ。結婚迄の不器用な交流、新聞紙で顔を撫でるとこどもが寝る(このシーン好き)発見、そんなエピソードが今後もたくさん出てくるだろう。認識の作業はこれからもずっと続くのだと思う。

こんなふうに言えるのは、こちらが第三者だからだろう。では、自分はどうだ? そう思わせる。これが岩井作品の特色でもあり凄みでもあると思う。認識する作業に参加しようぜ。「人の『死』と、それにまつわる風景が、もっと開かれたものになったらいいな、と。」当日配布のパンフレットの言葉が、心に残った。

ディテールの細やかさは毎回見事。棺桶のグレード、弔辞と言った現場では笑えない葬式あるあるが楽しい(そう、楽しいのだ)。ハイバイブランドの雑な女装、そのオールマイティぶりに改めて感心。滑稽にも哀愁にもなる。母親を演じた山内圭哉のスキンヘッドがああいった形で役に立つとは…登場時は「スキンヘッド(辮髪あり)の男性がヅラを被って母親を演じる」笑いとして、後半は抗がん剤の副作用を示すものとして。瞬時に死が身近に迫り、冷水を頭から被せられた気持ちになる。山内さんのスネのスミがスカートの裾から見える度、「夫にどんなに暴力ふるわれてもおかあさん強いもんねスミ入ってるもんね!」なんて思ったりもした。このワンクッションには随分救われた。予想外に山内さんのお腹がぷよぷよしてたのにはショックを受けたが、いやいや、役作りかもしれん(笑)。

父親役の猪俣俊明、姉役の鄭亜美、兄役の平原テツのなりきりぶりには舌をまく。勿論ほんものの岩井家を知るはずもないのだが、「そうとしか見えない」。田村健太郎演じる小岩井のそっくりっぷりには笑った。最前列だったんだけど、それ程近くで見ても似ていた。岩井さんが箱庭に置いていく岩井家のひとびと。家族を認識する作業が今後作品になるかはわからない。でも、なるなら観ていきたい。

01月28日(木)
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