ID:43818
I'LL BE COMIN' BACK FOR MORE
by kai
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■『客 손님』
『客 손님』@La Keyaki

『From the Sea』のソ・ヒョンソク新作。前作同様、観客は演者とほぼ一対一で作品に参加する。観客は演者の演技、質問に応じて動く。よって作品は皆違うものになる。今回はIAFT参加作品としての上演で、30分弱の短編。自分に起こったことを書く。

twitterで公演を知り、webで申し込み。この経過も面白かった。ある日突然、見知らぬアカウントからフォローされていたので辿ってみると公演告知のアカウントだったというわけ。いやはや、12月の慌ただしい時期だったので、フォローされなかったら公演のことを知らないままだったかも。気付いたのチケット発売当日でしたし! 有難うや有難や。

当日が近付くにつれ会場が発表され、地図や受付方法等がメールで届くようになる。リマインドも何度か。実券が手元にないので定期的に届くお知らせに安心感も得る。全てがPCやモバイルのなか、という実感のなさは、この公演には似合っている。終わったら記憶だけが残る。会場となるLa Keyaki(ラ・ケヤキ)はサラヴァ東京に何度か行っている縁で知ってはいたが、実際に足を向けるのは初めて。前日またもや雪になるかもという予報。遠足みたいに中止や延期になることってあるんだろうか。いやでも今回は屋内だし…と思いつつ、まめにメールやサイトをチェックしてしまう。

雪は降らず当日に。それでも早めに家を出る。何しろ自慢になる程の方向音痴、しかし普段うろうろしているエリアの近くだったので無事到着。丁度参加を終えたらしい女性が出てくるのが見えた。受付時間にはまだ早い、周辺を見てみるか。ラ・ケヤキだけでなく、古い家屋が沢山ある。よく通っている大通りからちょっと入ったところに、こんな静かな場所があったとは……と、しばらく散歩。

受付時間になったので戻る。門扉は閉じている。ベルは鳴らさず入ってくださいとある。ひとの気配が全くない(ようにとにかく静かだった)。上演会場だと認識してはいても、何しろ見てくれはまったくのひとんち。黙って勝手に入るのはやはり気がひける。そおっと入ってちいさな声でこんにちはーと言うと、スタッフの方が出てきてくれた。まず靴を預ける。peatixで用意されたQRコードは使わず、口頭で氏名を確認。こういうところ、公演を観にきたというより家に招待されたような気分になってもう楽しい。荷物を預け、クレヨンと紙で自分の似顔絵を描き、ヘッドフォンを装着。声に耳を傾ける。捨ててしまったこども。それは捨てられたり忘れられた自分かもしれないし、自分が捨てたり忘れた何かかもしれない。観客の自分はこの家に招かれた客でもある。そんなことを想起させるナレーション。その後聴こえてきた指示に従い、ヘッドフォンを外して部屋を移動。

訪れた部屋は受付を入れると五つだったか。こども(らしき人物)と対面し、二階の暗闇につれていかれ、寝室で自分(の似顔絵を顔に張った人物)と出会い、名前を呼ばれるまま階下へと降り、がらんとした和室(こういう場って自然と正座になりますね)でこどもと、手鏡の中の自分と向き合う。これが意外と怖くてですね……恐怖体験をさせる、という意図ではないことは伝わるのだが、それでも怖い。家具や調度品が軋む音(自然発生のものもあるけど、意図的に鳴らされるものは確かにあった)、風に吹かれるカーテンの向こう側に現れる黒髪のこども、そこから聴こえる途切れ途切れの言葉。この日は映画『残穢』の公開日で、前日迄やたらとCMを目にしていたこともあり「これ、そういうのじゃないよね? そういうのじゃないのよね?!」としばらく混乱する。

恐怖感は暗闇の部屋がピークだったのだが、ここで鳴らされたいくつかの音にすごく救われたというか、そこからリラックス出来た。アニメの登場人物がずっこけるときに使われるような効果音。想像されるものが一気に拡がった。そうだった、こどもの話だ。自分か他人か、こどものことを考えるんだった。ここからは自然と展開に身を委ねることが出来た。


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01月30日(土)
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