ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■いつか来たる結末、されど遠い未来であれ(3)

「・・・だからルキアは、あいつに自覚症状がないか、聞いたんだな?」

 だが、そう聞いた俺はまだまだ甘かった。事態はもっと、深刻なものをはらんでいたのだから。

「そうだ。まだこの部屋にいる時なら良いが、万が一外出先でそのような状況になってみろ、下手をすれば尸魂界にもあやつの存在が知られかねぬ」
「・・・・・!」
「貴様の死神代行許可も、取り消しになる恐れもある」
「なっ・・・!」

 ルキアのあまりの言い草に、俺は思わず彼女の胸倉を掴んでいた。

「何だよ、それは!? ルキアはあいつを心配してたんじゃねえのか?」

 それではまるで、人手不足だと言う死神を少しでも減らさないため、みたいに聞こえる。コンの寿命を案ずるのでは、なく。

 だがルキアは、そう詰めかかられるのは予想していたのだろう。顔色こそ悪いもののひどく落ち着き払って、俺に静かに諭した。

「あやつは全て、覚悟の上だったぞ?」
「覚悟って・・・」
「だから貴様には、このことを聞かせたくはなかったのだ。やはりまだまだ、死神としての自覚と覚悟が足りぬ。
・・・そういう意味では、まだコンの方が性根が座っていると見える。さすがに改造魂魄として、作られただけあるな」

 振り払うのではなく、ゆっくりとした仕草で胸元を掴んでいる俺の手を外すと、ルキアは静かに語り始める。

「一護、貴様がコンのことを案ずる気持ちは分かる。そもそも今日(こんにち)のような状況になったのも、あいつの境遇に同情してのことだったな。ましてや長い間一緒に暮らしてきて、情も移ったのだろうし。・・・だが、逆の立場のことを考えたことはないのか?」
「逆?」
「仮にも貴様は、あやつの命の恩人だ。尸魂界の掟に反して、あやつを助けた。
・・・もしそのことが尸魂界側に知られ、貴様が罰せられでもしたら、あやつがどんな気持ちになるか、考えたことはないのか?」
「・・・・・!」

 ルキアの厳しい言葉に、俺は一瞬思い出す。
 仕方なかったこととは言え、死神能力の譲渡と言う重罪を犯した、目の前のルキア。
 こいつが俺を助けるために、何の抵抗もせず連行されて行くのを、ただ、見守るしかなかった、無力な自分を・・・。

 あんな思いを、俺は、コンにもさせている、って言うのか?

「口でどれほど生意気なことをほざいておっても、コンは本音では貴様のことを慕っておる。そして、自分のせいで貴様が危険な目に遭うなど、きっといたたまれぬ。それに・・・朽木家と言う後ろ盾がある私とは違って、貴様は死神代行とは言え、単なる無力な人間に過ぎぬのだぞ?」

 言い方は傲慢だったものの、俺にはルキアが言いたいことが良く分かった。分からざるを得なかった。
 だって、俺はあの時いたたまれなかったから。ルキアが処刑されると知って、何が何でも、どんな手段を用いても助けたいと願い、ついには実行に至ったのだから。

 だが、コンの場合は、俺とは違う。
 あいつが今戦ってるのは、尸魂界の掟なんかじゃない。自分の寿命、と言う、いつかは必ず訪れる、逃れきれない運命。

 人も死神も、不老不死ではありえない。改造魂魄って「モノ」も、いつかは寿命が尽きる。それはあいつにだって、ましてや俺にだって、そして死神であるルキアにでさえ、既にどうしようもないことではないか───。

 俺は押入れの中で聞いた、コンの、らしからぬ殊勝なセリフを思い出していた。

『せめて俺からの、最後の思いやりってヤツ?』

 どうしてもやり切れぬものを感じる俺に、それ以上論じても意味はないと察してくれたんだろう。ルキアは少しだけ笑みを見せて、こう言った。

「・・・大切なことを隠していて、すまなかったな、一護。だがこれは、今日明日の切羽詰った話ではない。遠い未来のことを、私たちだけでとやかく言う筋合いのものではないだろう。
ただ、そういう前提のことなのだと、心に留めておいてくれ。今は、それだけでいい」

 確かに、あいつが既に覚悟を決めているんなら、俺が下手に騒いでも逆効果だろう。

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12月03日(水)
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