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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!!(14)≪中編≫

※ぬわんと、今回はキリの良いところまで書いたせいで、恐怖の3部作と成り果てました。とにかく長いです。時間のあるときにお読みください。

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「・・・そうよ。死んだ人間は好き放題して後は知らん顔、で良いけど、い、生きてる人間は、その、後始末しなきゃ、いけないでしょう、が・・・。
いい? あんた、を、見殺しにしたあの2人への、あんたの復讐を公にすることは、すなわち、結果的に火事現場へ、あんたを連れて行ったお夏の父親をも、世間の非難の暴風にさらすってことは、分かりますよね? そんなことになったら、あんたの好きなお夏も、間違いなく、不幸になるってことも。
・・・それを防ぐには、この、一連の怪奇事件の、原因を適当、に、火附盗賊改方たるあたしたち、が、ごまかす必要がある、ってわけ。
・・・なのに、肝心のあたしが、あんたへの恨み、云々なんて言ってたら、誤魔化、せるものも、誤魔化せなく、なるじゃないの・・・だから、あんたのしたことは、忘れてあげますよ・・・も、ものすごく、不本意、なんだけどね・・・ま、まあもっとも、あんたとしても、笹屋と岸井屋の罪を、世間に表ざたに出来ないって条件付だから、少しは、溜飲が、下がるってものだわ。
・・・と、とにかく、あんたは、あの2人への恨みを、忘れなさい、な。あたしも、あんたにしでかされたことは、なるべく、忘れて、あげますから。
これは、交換条件よ。あんたが、いっぱしの男のつもりなら、そのくらい、できるでしょう、が・・・。」

 よくもまあ我ながら、苦しい息の下、こうも屁理屈がこねられたものだと思うわよ。
 でも火傷の痛みでいい加減、思考能力の方もおかしくなりそうだったんだけど、それでも根性出してあたしは、そう言い切ってやった。
 しばしの沈黙の後。

 ───忘レル・・・? アノ2人ガ僕ヤ姉上ヲ陥レタコトヲ・・・?

 勇之介がポツリ、とそう呟くのが聞こえた時、あたしは失敗したかも、と覚悟せずにはいられなかった。
 だって、そもそも勇之介が怨霊に成り果てたのだって、笹屋と岸井屋への恨みのためだったんですもの。それをまた彼が持ち出したってコトは、再び堂々巡りの始まりだって思うじゃない。
 でも、今回は違った。勇之介が次に口にしたのは、ずっと穏やかな言葉だったから。

 ───僕ガ忘レタラ・・・オ夏チャンハ救ワレルノ・・・?
ソウスレバ姉上モ、浮カバレルノ・・・?

「勇之介ちゃ・・・」

 お夏が何か言いかけるのを懸命に押しとどめて、あたしは何とか請け負った。

「多分、ね。それにこのコだって、あんたが、恨みに縛られてる、怨霊でいつづけることこそが、辛いに違いないでしょうから」

 ───・・・・・・・。

 再び沈黙が落ちた。
 がそのうち、見る見るうちに室内の禍々しい空気が薄れていくのが分かる。殺気とか、恨みとか、そんなドロドロした感情から、勇之介が開放されたかのように。

 ───・・・シテクダサイ・・・。

 唐突に、勇之介は呟いた。

 ───コレ以上・・・僕ガ何カヲ恨マナクテ済ムヨウ、僕ヲ成仏サセテクダサイ・・・。

 勇之介がそう懇願したのは、当然あたしではない。自分に<力>を与えた元凶の桔梗に、彼は相対していた。

 だけど、折角ご指名された桔梗や風祭たちは、と言うと、当惑の色を濃くしている。
 それはそうだろう。確か彼らはあたしと御厨さんに言っていたもの。『たとえ本人がしたいと望んでも成仏は出来ない』って、はっきりと。
 かと言って、それをこの場で宣告することが憚れるのは確かだ。やっと勇之介自身が悔い改める気になったって言うのに、ここで成仏出来ない、なんて言って御覧なさいな。今まで以上に荒れ狂うことになったら、目も当てられないじゃない。

『おい、何か良い方法はないのか?』
 勇之介に聞こえないくらいの小声で、御厨さんは九桐たちに問い正す。
『そ、そんなこと言ったってよお・・・』
『以前お政を成仏させたのは、あたしたちの力じゃなかったしねえ・・・』

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12月29日(月)
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