ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
[61420hit]

■茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−1 外法帖
※ここへの書き込みが、一体何日ぶりになるのでありましょうか。でも、1ヶ月は間が空いていないだけ、まだマシと言ったところなのかな? 以前と比べて、ではありますが(笑)。
 さて今回にて、とりあえず話の伏線は全部張り尽くしたつもりであります。後は鬼道衆を出すのみなんですが・・・彼らの今作品での境遇に対して、どうか怒らないで下さいね。今のうち謝っておきますが(汗)。

***********
茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−1


 奇妙な夢を見た。

 いかにも腕っ節の強そうな盗賊の頭が(名のってもいないくせに、何故かそうだと分かってる辺り、夢って証拠よね)、あたしに向かって刀で斬り込んで来る。ぎらぎらと、殺気走った目をして
 それを見事な剣さばきで攻撃をかわしたあたしはと言えば、手のひらを広げたかと思うと何やら呪文のようなものを唱え始める。
 そこへ、盗賊たちがわんさとばかりに押し寄せてきて、視界いっぱいがまばゆい光に覆われたところで・・・。

 唐突に目が、覚めた。

*********

 疲れのあまり、布団の中で寝入っている男───それが現実のあたし。
 だけど夢の名残か、広げられた手のひらだけは天井目掛けて突き出されており、あたしを自嘲気味にさせた。
 手を布団の中に戻そうとして、ふと思い直す。わずかに入ってくる夕陽にかざすようにして、手の平を天井からこちらへと転じて見た。
 そこにあったのは竹刀ダコがあるわけでもない、何かの<妖力>を使えるでもない、ひょろりとしたいかにも鍛えていない青白い手、だった。
 ・・・そのまま手の平で顔を覆いながら、今し方まで見ていた夢を反芻する。
 別に悪夢と言うわけではない。夢の中のあたしは随分と優秀な与力で、どんなに強い盗賊でもねじ伏せてしまう剣術と<妖力>を、持っている。それがおぞましいわけでもない。
 ただ───目が覚めた時無性に、惨めになるだけ。

<・・・久しぶりに見ちゃったわね、こんな夢>

 初めて見たのは、確か火附盗賊改与力を拝命すると決まってから。やはり与力を勤めていた父親が隠居したいからと、あたしに火附盗賊改になるよう言い渡した時から。

 ───正直言ってあの時は、自分の耳を疑ったわね。当時のあたしは、そりゃまあ勉学についてはそこそこイイ線言っていたけれど、剣術はからっきし。唯一得意な乗馬も不純な理由で会得しただけで、別に与力になるべく心がけていたわけじゃなかったから。

 え? どうして与力が乗馬の心得がなきゃいけないのか、ですって? ・・・ふむ、すこし説明不足だったわね。
 奉行所であれ火附盗賊改であれ、配属される人員のうち同心は「1人2人」って数えるけど、与力は「1騎2騎」って数えるのがしきたりになってるの。何故かって? 与力は元々非常時には、馬に跨って戦うことになってるせいよ。まあ、徳川幕府もこう太平の時代が続けば、武士ですらそんなに乗馬に卓越してないのが、実状ではあるんだけどね。だからあたしが乗馬を会得しているのも、他人からはかなり変わり者だと思われてしまったみたい。
 話がそれてしまったわね。ええと、どこまで話したんでしたっけ? ・・・ああ、あたしが火附盗賊改与力を、父親から申し渡されたところからだったかしら。

 これが同じ与力でも、奉行所勤めだってならまだ話は分かるわ。だけど、ものが火附盗賊改よ? いざとなったら盗賊相手に斬り合いまでしなきゃならない、泣く子も黙る火附盗賊改なのよ? どう考えたって、あたしに勤まるはずがないじゃない。
 だけど、父親はいい加減高齢でこれ以上のお勤めは無理だって言うし、母親からは情けないだのそれでも男かだのと泣き付かれるし、他に仕事があるわけでもなしで、あたしは本当に渋々、父親の後を継いで火附盗賊改与力になったんだっけ。

 さっきみたいな夢を見始めたのは、ちょうどその頃。多分、自分の待遇に反した実力に隔たりを自覚して、焦っていたせいなんでしょうね。

[5]続きを読む

04月26日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る