ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
[61420hit]
■茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・後編 外法帖
※続きです。原稿用紙20枚分って結構少ないなあ、そしてそれだけの文章に纏め上げるのって難しいよなあ、と思っています。精進しないと。
**********
茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・後編
そうして京橋で一通りの成果───又之助が頻繁に笹屋を訪れていたことや、最近眠れないと久兵衛自身がこぼしていたことなど───を得たあたしと御厨さんは、夕刻近くに火附盗賊改方役宅へと戻って来た。
「あ、親分、今帰りっすか?」
「おう、お前もか与助」
ちょうど探索に出かけた帰りらしい与助と、門のところで合流して中へ一緒に入る。
「・・・それで与助、あなたの方は何かめぼしい手がかりでも見つかったのですか?」
とりあえずあたしたちは、奥の詰所で与助の報告を聞くことにした。
ちなみに、あたしが笹屋の奥方から得た情報については、御厨さんにはざっと大まかに説明はしてあるけど、与助の方にはまだである。・・・一応断っておくと、別に与助をないがしろにしているわけじゃないのよ。あたしとしては私情がなるべく入ってない情報を聞きたいから、先入観をまじえたくなかったってわけ。
「へい、色々と面白い・・・じゃなくて、込み入った事情が岸井屋にあったらしいことは、掴んで来やしたよ」
どうやら出先で手応えがあったらしい与助は、妙にわくわくとした口調で話し出す。
「まずは岡場所に行ってみたんですけどね。又之助の奴、どうも夜の相手を毎晩『とっかえひっかえ』していたらしいっす」
「毎晩?」
「・・・単なる助平って意味じゃないの?」
与助ってばやっぱり真っ先に岡場所へ行ったのね、とか、それら全部の遊女と話をしてデレデレしていたんだろう、とか、色んなことを胸の奥に押し込めたまま、あたしはそっけなく返したんだけど。
与助はと言うとちっちっちっ、と人差し指を左右に揺らし、それは嬉しそうに付け加える。
「それもないって言えば嘘になるんでしょうけどね。ここからが本題っす。・・・なんとそいつら全員を、又之助は何故か同じ名前で呼んでたんだそうで」
「同じ名前だと?」
「へい。それが驚くじゃあございやせんか。『おろく』って呼んでいたんですよ」
───あたしと御厨さんは思わず、お互いの顔を見合わせずにはいられなかった。
その名前自体はこの江戸じゃ、そんなに珍しいものじゃない。
だけど、今回の場合『おろく』と聞いて連想するのは、先日火あぶりに加せられた火付け犯だけ。
弟可愛さのあまりに火を付け、挙げ句その弟すら死に追いやってしまった悲劇の女。そして岸井屋・又之助と笹屋・久兵衛を繋げるきっかけを作った、小津屋大火事の火付け犯・おろくだけ───!
「どういうことだ・・・本当に1月前のあの火事と又之助は、何か関係があったと言うのか・・・?」
そううめく御厨さんをよそに、与助の説明は続く。
「とにかく又之助が、自分が買った遊女を皆『おろく』って呼んでいたのは間違いないっす。彼女たちの本当の名前がおふさだろうがおみよだろうが、そんなのを無視して『おろく』と呼んでたってんでさあ。・・・まあ遊女たちも商売だから、そういう名前が好きなのか、或いは片思いの女の名前だろうって納得して、又之助から呼ばれるままにしてたってことで」
「それで、又之助がそんな酔狂な真似をするようになったのは、いつからなの?」
「確か九日前と聞いておりやす。帰る時刻はその日によって違ったんですが、来るのは必ず日が落ちる前だった、と」
ふん・・・岡場所に通うようになったのは、久兵衛があんな無残な目に遭ったのを知ってから、ってことになるわね。おろくの火事が起きてから、じゃない辺りに引っ掛かりを覚えるわ。
「・・・遊女たちから見て、又之助はどんな様子だったって聞いてる?」
「いつも脅えていたらしいっすよ。結構尊大な感じなだけに、閨では妙に怖がったりしがみ付いて来たから、内心いい気味だって思ったり、優しい遊女辺りになると逆に母性本能くすぐられてたみたいっすけどね」
[5]続きを読む
04月14日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る