ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(3)−2 外法帖
※続きです・・・長くなったからマズいな、とは思ってたんですが、エラー起こすとは☆
とりあえず、どうぞ。
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「浅はかな女よね」
事件の帳面を読み終わって、あたしはすっぱり言い切った。
「・・・手厳しいですね、榊さんは」
ま、お優しい御厨さんがこう応えるのは、何となく予想がついてたけど、そのまま持論を続けるあたし。
「でもだって、そうでしょう? 確かに今までの怨みがあるからって、すぐに感情的になって火を付けちゃうなんてさ。それで火あぶりになんてなったら、それこそ病弱な弟とやらがのたれ死んじゃうのは、目に見えるじゃない。
ここは自分のためにも、弟のためにも、新しい仕事でも見つけて頑張ろう、って気持ちにだけでもなってたら、結果は少しは違ったと思いますけどね」
「・・・・・」
「ま、人の思いはそれぞれか」
あたしはそう言って、話を打ち切った。御厨さんの反論は、あえて聞こうとも思わないわ。
「しかし、あの事件の関係者が死んだとなると・・・犯人はおろくっすかねえ?」
今まで黙って帳面をめくるあたしたちを見ていた与助が、そう言って話に加わってくる。(与助は役人じゃないから、事件帳簿はおいそれと閲覧できないのよ)
美人が事件に絡むとなると、俄然張り切っちゃうって言うその性格、分かり易いわね全く。
「おろくの怨霊だと言いたいのか? 与助」
「だってそうとしか、思えねえっすよ。この世に未練を残した美人幽霊が、せめて極楽浄土へ行った弟が寂しくないように、あの火事で死にぞこなった連中を道連れに狙ってるとしか・・・くうううっ、何て弟思いなんだっ、泣かせるじゃあありやせんかあっ」
弟が寂しくないように道連れを、ねえ・・・。
「与助・・・あんた、御芝居の脚本書けるんじゃないの? 何ならそっちに転職する?」
「殺生な事、言わないで下さいよぉ榊様。親分も何とか言って下さいってば」
「何とかと言われても・・・」
「あっしは岡っ引きが天職と、心に決めてるんでさあ」
与助の天職だか、転職だかはまあともかく。
あたしはむしろ、おろくはとっくに怨みは残してないって気がしたんだけど。弟の供養のためにも、さ。だって変に他人を怨んだせいで、弟の勇之介は死んだんだから。まあ、それこそ人の考えはそれぞれだけど。
でも、それはどうやら御厨さんも同じだったらしい。
「生き残りを道連れにしたいと願うなら、どちらかと言うとおろく姉弟以外で焼け死んだ者だと、俺は思うがな。彼らは理不尽にも、言わばおろくと小津屋の痴話喧嘩に巻き込まれたのだから」
「・・・そうね。自分たちの無念を思い知れ、ってばかりにね」
そう相槌を打ってたけど、あたしはその時おかしな事に気づいた。
「でもさあ、何で火傷も怪我もしてない岸井屋を狙うわけ? ・・・例えばスリが道で財布を狙うとするじゃない。屈強の男と、火傷や怪我を負った人間と、どっちが狙いやすいと思う?」
本格派のスリともなると、実は困ってるような人間からは絶対スリ取らないとは聞いてるんだけどね、まあ例え話って事で。
「・・・火傷も怪我も負っていない岸井屋を殺すとなると、手間取るのが目に見えてますしね。火付としても同じことだ。すぐに消火されるかもしれない、か」
御厨さんがそう言って首を捻っていると、何故か与助がポン、と手を打った。
「わかった! きっとその怨霊なり幽霊は、榊様のような御人なんだ」
「・・・何ですって?」
「自分の美貌とか、美肌とかに自信があったりしたんじゃないっすかねえ。で、火傷を負わせられて、怨みに思った。だから、火傷を負ってない岸井屋を妬ましく思って火を付けた。・・・どうっす? いいセン言ってると思いやすが・・・って、どうしたんです、親分」
「・・・いや、何でも・・・」
横目で睨むと、御厨さんてばソッポ向いて言葉を濁してる。
───ふん。おおかた御厨さん「あたしとそっくりな幽霊」って言うのを想像しちゃった、ってところでしょうよ。子分の言葉につられたとは言え、ちょっと失礼しちゃうじゃない。
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03月16日(土)
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