ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■忘るる事象について、いくつかの報告(2)
「そもそも普段から俺たちは2人きりでいる時、わざわざ名前で呼び合うってコト、ほとんどなかっただろうがよ」
「そこはエバって言えることかよ、この野郎」
「まあまあ、黒崎さんもコンさんも落ち着いて」
夜一の質問そっちのけで口論を始めそうな気配に、浦原がとっさに止めに入る。
「何だか、『おい』『お前』だけで会話成立させてる、熟年夫婦みたいなやり取りですねえ」
「・・・何だって?」
「いえいえ、聞こえなかったんだったら良いんですよ。でも確かに夜一サンの言う通り、おかしな現象ですねえ?」
「そうじゃろう?」
夜一は頷いたが、どちらかと言うと愉快そうな顔に見えるのが、一護には癪だ。
「生みの親より、育ての親、と言ったところじゃな」
「「誰が親だ、誰が」」
「言葉のアヤじゃ、気にするな。それはともかく・・・喜助。元・技術開発局々長としてのお主の意見、聞きたいものじゃがのお」
悪戯っぽい目をひらめかせる夜一に、一護は少々居心地の悪さを覚え始めた。
・・・何もそういう気恥ずかしいことを、皆が聞いているこの場で聞かずとも良さそうなものを。
「そうですねえ・・・」
浦原はちょっとだけ、考えるそぶりをしながら周囲を見渡す。まるで皆が聞いているのを、確かめているかのように。
「まず1番目に考えられるのは、コンさんが改造魂魄と言う特殊な存在であるが故、記憶を刈り取られることがなかった、と言う説」
「! だが、それは・・・」
「そう、朽木さんも先ほどおっしゃっていた通り、その説はきっぱり否定できます。何たって、朽木さんを初めとした死神が皆、覚えていなかったのだから」
気まずい思いを共有しながらも、この場にいる死神は皆納得する。
「2番目に考えられるのは、距離の壁というヤツです。尸魂界と現世の間には、断界と言う時空を隔てる壁が存在する。それ故に、刈られる記憶に差が生じた・・・」
ですが、と浦原は、夜一と視線を交わしてみせる。
「その説もありえませんね。実際、私たち浦原商店の者は現世にいたのに、皆黒崎さんやコンさんのことを覚えていませんでした」
ルキアの異変を感じ、浦原商店へ足を運んだ時の違和感を、一護は思い出す。確かにあの時応対してくれた雨の態度は、まるっきり初対面の人間に対するものだった。
「となると、考えられるのは・・・まあ、これはあくまでも想像でしかないので、なんとも検証がしづらいんですが」
ヤケにもったいぶった言い方で、浦原は周囲の注目を惹いてから、告げた。
「黒崎さんと朽木ルキアさん、あるいは朽木さんとコンさんの間にあるものとはまた別の絆が、黒崎さんとコンさんの間にもちゃんと育まれていた・・・と言ったところでしょうかねえ?」
「へ?」
「・・・・・」
浦原のそのセリフに、コンが仰天したような視線を向けてくるのを、照れからそっぽを向いてやり過ごす一護。
が、そのくらいで浦原の主張を中断させることなど、出来るはずもなく。
「そもそも何だかんだ言いながらも、黒崎さんは廃棄処分されかかったコンさんを、ご自分の意思で引き取った。そう、朽木さんや誰かに、強要されてのことじゃない。その時点で既にコンさんは、黒崎さんにとっちゃ特別な存在になってるんです。本人も無意識のうちにね」
自分の意思が故に、死神になったこと自体は忘れなかったのと同じ理屈っス───ルキアから死神能力を譲渡された経緯を聞かされていたらしい浦原は、そう結論付ける。
「だから黒崎さんが今回、朽木さんのことを忘れてもコンさんのことを覚えていたのは、別段不思議でも何でもなく、ごくごく当然の結果だった───ってところっスかぁ?」
───一瞬の沈黙の後。
「い、いちごおおおおおっ!!」
感動のあまり、目から鼻から涙やら鼻水やらをただ漏れさせたぬいぐるみは、全身全霊で一護に抱きついた。
「だああああっ! 鼻水を擦り付けるなよ、コンっ!」
「やっぱりおめーは親友だああっ! 1人で凹んでて悪かったあああっ!」
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12月25日(木)
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