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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■snow snow snow(BL■ACH コンBD)
その年最後の週、日本列島を襲った寒波はここ、空座町にも多量な雪をもたらした。
それはそんな、雪が降りしきる真夜中の物語。
「外に出たい」
「・・・はあ」
「ンで、雪を見たい」
ぬいぐるみの居候は、俺の体を使いたい理由をそう告げた。
時計はと見れば、あと1時間で翌日になる時刻。・・・どうせなら、何でもっと早い時間に言い出さねえんだ、こいつは。
もっとも、そのうちいつかはそう来ると思ってはいた。今年初めての雪が降った先日、あいつは時間と人目が許す限り窓にへばりついて、外を眺めていたから。
何でも、雪を直接見るのは初めてとかで、珍しかったらしい。だからてっきり、その日のうちに外出許可を欲しがると思っていたのに。
どうしてこんな年暮れに、しかもこんな真夜中になってから言いやがるんだ。
「・・・虚が出たら、とっとと部屋へ戻るって約束しろよ?」
それでも、何故か断る理由が見つからなかった俺は、代行証を取り出してぬいぐるみへと押し付けた。
「すンげえな一護! 周り全部真っ白だ!」
「そうかい」
屋根の上へ揃って登れば、真夜中の月明かりが雪に反射して、何とも幻想的な銀世界を演出している。
「吐く息も白いし」
「そりゃ、寒いからな」
「何だよ一護、随分感動が薄いじゃねえの」
「てめえが大げさに騒ぎ過ぎンだ。大体ソレ、俺の体だってこと忘れんなよ。下手に他人に見つかったら、後で何言われると思ってんだ」
「こんな真夜中の、しかも屋根の上なんて、そうそう誰も見てねえって」
おまけに、こんなに寒けりゃ、尚更だろうよ。
───それが分かっていても、俺はコンの奴に文句を垂れるのをやめねえ。
「あー、やっぱりだー」
「大声出すなって。見つかるぞ」
「だってよ、いつもならこんだけ声出してたら反響して山彦みたいになるのに、今夜は全然だ」
「それは・・・雪のせいだ。音とか吸収しちまう、って話だぞ」
「へえ。だから雪降ってる時ってヤケに静かなのか。雨とかと同じ水なのに、何でこんなに違うんだ?」
「さあな」
「・・・ホント、一護って感動薄いよなあ。つまんねーの」
コンはそう言いながら、天に向かって大口を開けた。降って来る雪を直接食べるためだ。それはもう楽しそうに、嬉しそうに。
・・・ああ、そうさ。俺は少し恥ずかしいんだよ。自分がガキの頃、雪が降った日にやらかしたこと全部、コンが俺の顔で体で、まるでなぞるようにやってやがるから。
もう戻らない日を懐かしく思うのは、少しは感傷的になっている証拠だろうか。子供時代の俺の横には、お袋の笑顔がいつもあったっけ。
「姐さん、今頃何してんだろ?」
ひとしきり雪の感触を楽しんで。コンはおもむろにそう呟いた。
こいつの言う『姐さん』はむろん、死神の朽木ルキアのこと。言葉では『愛しの姐さん』と表現しちゃいるが、それは恋する男と言うよりも、半分は親愛の情なんじゃねえだろうか。そう、子供が母親に感じるようなのと同じ。
ちょうどお袋のことを思い出していた時だったから、俺は妙な符号にドキリ、となった。
「・・・お前ひょっとして、ルキアのこと待ってたのか? あいつとこの雪景色、楽しみたかったとか? だからこんな時刻になっちまったのかよ?」
「んー、まあ、それもちょっとある」
「無理だって言ってたろうがよ。死神の仕事はギリギリ年末までだし、大晦日と元旦は朽木家の行事があるって」
先日雪が降る前、まだ冬休みに突入してない時だったか。たまたま部屋を訪れてたルキアに何となく話の流れで聞いたら、年末年始の過ごし方とやらを教えられた。尸魂界にも大晦日があるのか、じゃあクリスマスやバレンタインデーは、とやけに盛り上がった記憶がある。
「ンなの分かってるけどさー、何となくひょっとして、とか思うじゃねえか。時間がちょびっとだけ空いたから、とか言って」
「それはお前の願望だろうが」
「別に良いだろ? 頭ン中で考えてるだけだったら、誰にも迷惑かけないんだしよ」
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12月30日(火)
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