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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!!(14)≪前編≫
効果は抜群。今まで恨みに凝り固まっていたはずの勇之介が、あたしの言葉に耳を貸したのだ。・・・今だけ、かもしれないけど。
この機会を逃せば、おそらくこの場の全員が救われない───あたしはそれこそ必死だった。
半ば裏返っている声を必死に言語へと代え、怨霊の説得、なんて、火附盗賊改・与力としても前代未聞のことを、やろうとしていた。
「だ、だってそうじゃないですか! あんたがこの子の親を殺せば、間違いなくお夏は救われないわ! 目の前で父親を殺されるのを止められなかった、って自責の念に一生、さいなまれることになるのよ!? あ、あんたには分かってるはずよね!? 姉上を止めることが出来ずに死んだ弟のあんたなら、その悔しさと苦しさがっ!」
───・・・っ!
「こ、このままあんたが本懐を遂げでもしたら、このお夏は生きながら地獄に落ちるのよ!? 今のあんたと同じ苦しみを、生きてるこのコにも味あわせたいって言うの! イヤでしょ、そんなこと、あんたは絶対させたくないんでしょうがっ!」
皆、息を呑んで、あたしの説得工作を見守っているのがヒシヒシと感じられる。
痛いほどに視線を浴びる中、勇之介は相変わらず姉上にこだわる発言を続けていた。
───ケ、ケド・・・ダッタラ、姉上ノ無念ハドウナルンダ・・・
誰カガ姉上ヲ止メテクレタラ、姉上ハ苦シミノウチニ死ヌコトハナカッタノニ・・・。
「あんたの姉上はね! あんたの成仏をこそ、望んでいたのよっ! じ、自分は地獄行きかも知れないけど、優しいあんたは極楽浄土にたどり着いて欲しい、って言ってたんだからっ! あんたは、そんな優しい姉上の気持ちも、ないがしろにするつもりなのっ! お夏の父親を殺せば間違いなくアンタ、地獄行きになるじゃないっ!」
───ア、姉上ガ・・・!?
おろくの最期の言葉を聞かされて、さすがに動揺したのだろう。復讐と怨念に支配されていた勇之介の態度が、少しずつ変わっていくような・・・。
「それに、お夏は、これからも生きていくのよっ。死んだ者のことを悲しんだり悔やんだりするのも確かに大切だけどっ、これからずっと生き続ける者のためを思うんだったら、これ以上人を恨むのは・・・っ・・・!?」
そこまで一気に言ったところで。
「ゲホッ・・・ゲホゲホ・・・ッ・・・!」
あたしは喉へせり上がって来る感触に、大きく咳き込んでしまった。多分さっきの炎で、五臓六腑の一部をやられたのかもしれない。胸の辺りが煤けたように、熱くて痛くて不快だ。
・・・結構、マズい状況かも知れない。
「榊さん!」
御厨さんが気がかりそうに声をかけてくるけど、ただ左右に首を振るだけで済ませる。
そんなあたしに、何故か勇之介が声をかけてきた。
───オ前ハ・・・苦シクナイトデモ言ウノカ・・・?
何ノ関係モナイノニ、僕ニ焼キ殺サレカケタクセニ・・・
恨ミニ思ワナイトデモ言ウノカ・・・?
ソンナニ苦シソウニシテイルクセニ・・・。
僕ト同ジ苦シミヲ味ワッテイルト言ウノニ・・・!
憎イダロウ、僕ガ。殺シテヤリタイダロウ、僕ヲ・・・!
悪魔の囁き、というものがこの世に存在するなら、まさに今のがソレでしょうね。
まあ勇之介にそんなつもりはなくて、単に自分と同じく焼き殺されかけてるくせにそんなおためごかしを言うつもりか、って気持ちなんでしょうけど。
あたしをこんな目に遭わせたあんたが、憎い。殺してやりたい。
───そう口にしたら最後だ。あたしは直感的に思ったから、口に出してはこう言ってのけた。
「あいにくだけど・・・あたしは忘れてあげますからね、あんたの、やったこと、は」
───・・・・・!?
「そりゃ、苦しい、し、どうしてあたしがこんな目に、って気分にはなりはする、けどね・・・死んだ人間をどう、恨んだり、殺したり、出来るって言うんですか? それに、この件をもみ消して、お夏たち父子を不問に付すためには、あんたがあたしにやらかしたことをある程度、忘れる必要があるんですからね・・・」
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12月28日(日)
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