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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−1 外法帖
「・・・?」
風呂敷きの中から出てきた物を見て、あたしは眉をひそめずにはいられない。
それは、一見何の変哲もない巾着袋だった。どうやらかなりの小銭が入っているらしく、じゃらじゃらと音が聞こえる。
ただ、柄の趣味はいただけないわね。全体的には深緑、そして底の部分には白い格子模様が入った布が使われているんだけど、どういうわけか褐色色の染めが入れられている。何もこんな染めを入れなくたって、もっと違う色の方が引き立つでしょうに。これを作った人間って、よほど美的感覚がないらしいわ。
しかし・・・これのどこが、奥方を震え上がらせるような代物だって言うのかしら?
「小銭とか、瓦版とか、色々入ってるみたいっすね」
与助は言いながら、巾着の中のものを1つ1つ取り出す。だけど、それを見守っているうちにあたしは、段々胸の中がむかついてくるのを覚えていた。
紐で束ねられた小銭は銅貨でみんな妙に変色しているし、瓦版のはずの紙が何故か真っ赤に染められている。そして、こちらに漂ってくる鉄錆の匂い・・・。
「榊さん、どうかなさったんですか?」
あたしの顔色の悪さに気づき、御厨さんが声をかけてきたけど、あたしは返事をするどころじゃなかった。
ただちに与助から巾着袋を引ったくり、自分で検分する。中から出てきたのは他に、端が赤くなった手ぬぐいに、薄い桃色の鼻紙、そしてところどころが紫色になっている緑色のお守り袋・・・。
「こんな桃色の鼻紙なんて、どうやって手に入れたんでありやしょうねえ? しかも男が。綺麗な女人って言うなら、話は分かりやすけど・・・」
後ろから覗き込んでノンキなことを言ってる与助に、あたしはきっぱり言ってやった。
「・・・別に桃色の鼻紙なんて、ありはしませんよ」
「え? けど現にこうやって・・・」
「これは普通の鼻紙に他なりません。ただ・・・少し血に染まっているみたいですけどね」
一瞬の沈黙の後。
「・・・・うわわわわっ!?」
事の次第を知った与助が、情けない叫び声を上げるのを聞きながら、あたしはゆっくりと手の中の瓦版を広げた。
丁寧に畳まれていたそれは、広げようとすると紙同士がくっ付いてしまっていて、下手をすると破れそうだ。それでも苦労をして、内容を検分する。
これはあたしもよく見かける、杏花って瓦版屋が作って売り出しているものに間違いない。だけど、彼女がこんな色の紙を使ったことなど、今まで一度もなかった。
だとしたら、答えは1つ。この巾着袋全体が、血に染まっているって事だわ。だから巾着袋に変な染みが入ったり、小銭が変色してしまったわけね。
「どういう意味なのだ、これは!」
「私どもにも訳が分からないのでございます」
御厨さんの厳しい詰問に、岸井屋の奥方はすっかり脅えてしまっている。
それでも自分たちは何も知らないのだと言うことを主張すべく、必死でもつれる舌を動かしているって感じね。気休めにも、息子の手をぎゅっと握り締めて。
「い、今までわたしどももこのような巾着、見たことがないのでございます。主人の身の回りのものを整理しておりましたら、まるで隠すようにされていたものを息子が見つけて・・・」
「では、又之助の持ち物ではない、ということなんですね?」
「さ、さようでございます」
ガチガチと歯まで震え出した奥方は、縋るような目であたしたちに聞き返してくる。
「一体主人は、何をしていたのでございましょうか? こんな、血まみれの大金が入った巾着袋など・・・。ま、まさか、強盗でもしでかしたのでは・・・」
「それは・・・」
さすがの御厨さんも、多分同じ事を考えてしまったんでしょうね。すっかり言葉を失ってしまっている。
だけど、あたしにはこれだけは言える。
「・・・そんなことはありえませんよ。もし又之助がそのようなことをしたとして、どうしてわざわざ巾着袋ごと隠しておく必要があるのですか? 万が一見咎められたら、言い訳のしようがないでしょうに。今だってそうなったじゃありませんか」
「し、しかし・・・」
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04月26日(金)
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