ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■過ぎし夢 来たる朝(3)外法帖・天戒×女主?
その時、緊迫の場には不似合いな忍び笑いが、九桐の耳を打った。
その声を辿れば、さっきまで寝入っていたはずの天戒の肩が、かすかに震えているのが見える。
「・・・・・・・・・・・若・・・・・・・」
押し殺したような九桐の声に、ついにこらえきれなくなったのだろう。
「ははははははははははっ! こ、こうも、うまく引っかかるとは思わなんだぞ・・・」
風祭と九桐、そして傍らの龍斗は、世にも珍しい九角天戒の、涙を目の端ににじませて豪快に笑い続ける姿、と言うものを目撃する羽目になった。
「・・・天戒殿・・・☆」
「済まぬな、龍斗。ほんの座興のつもりだったのだ・・・許せ」
謝りつつも、未だ天戒の笑いは止まりそうにない。
「つまり・・・わざと俺たちが誤解するように仕向けたと言うわけなのですな? 若」
「そういうことになるな。・・・断っておくが、俺はさっきまでずっと、龍斗の寝顔を肴に酒を飲んでいたのだ。だが尚雲たちがこちらに来る気配に気づいて、少しからかってやろうととっさに、龍斗が眠っていた布団に潜り込んだと言うわけだ」
「え? え? え?」
「だから澳継、俺はまだ龍斗には手を出しておらんぞ。安心したか?」
「な、なななんで俺が安心なんてっ!!」
「しかし、澳継と龍斗の反応は予想しておったが、尚雲までもがああも動揺するとはな。朝から珍しいものを見せてもらったぞ」
「若・・・お戯れも大概になさいませんと・・・」
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大騒ぎをする風祭と、苦い顔を主に向ける九桐を尻目に、龍斗はようやっと冷静さを取り戻しつつある。
しかし───龍斗はふと、先ほどまでの自分を省みた。
とにかく動揺せずにはいられなかったのだ。静かに意識が覚醒してみれば、自分はこともあろうに、天戒に腕枕をされて眠っていると来る。しかも自室ではなく、天戒の部屋で。さすがにあの時は、まだ寝足りないと言う気分が一気に吹き飛んでしまった。
一体どうしてこんなことに、と思っていたら九桐の声が聞こえ、隠れようとするいとまも与えられずに襖が開けられ───あれだけ血の気が引いたと感じた瞬間は、一生をおいて他にないだろう。
それがよもや、天戒のたわいない悪戯だったとは。
<まあ・・・何もなかったってことだし・・・覚えもないし、いいか。何だかんだ言っても、天戒殿には一晩酒に付き合ってもらったわけだ。このくらいの戯れ言、お礼だと思えば・・・>
その場で安堵の長嘆息を漏らす龍斗を横目で見ながら、主従の会話は続く。
「・・・そう言われれば、かなり酒の匂いがなさいますぞ若。一体どのくらい嗜まれたのやら」
「そう言うな尚雲。龍斗と差し向かえで呑む機会はめったにないし、おまけに龍斗は真夜中に水浴びをしていてな。冷え切った唇まで暖めるのには、かなりの酒が必要だったのだ。・・・それに俺が飲まないと、どうせ遠慮して盃が進まないのは分かりきっておったし」
「済みませぬ。そういうお心づかいでしたか、天戒殿」
「・・・と言うのは、俺が深酒をする口実に過ぎん。気に病むな」
そう笑う天戒を、龍斗は今までよりずっと眩しく見つめていたのだが。
「ところで、悪夢は見なかったのか? 龍斗」
言われて我に返る。
今までぐっすりと寝入っていて、夢など見た記憶はない。
「・・・ええ、おかげさまで」
「そうか。明け方に見る夢は正夢となると言うからな。悪い夢でないのは幸いだ。・・・さあ、身支度をしてこい、朝餉の時刻になる」
遠まわしに退室を命じられ、龍斗は軽く頭を下げて自室へと引き上げることにした。
自室で身支度を整えている時───ふと。
見ていなかったはずの今朝の夢が、脳裏に蘇る。
だがそれは、彼女が恐れていた恐ろしい夢とは程遠いものだった。
大勢の人がいて。
場所は何故か、ここ鬼哭村以外の外の世界で。
鬼道衆の皆がいて。鬼道衆以外の人間も、いて。
皆それは嬉しそうに、笑いながら酒を飲み交わしている、夢・・・。
<明け方に見る夢は、正夢、か・・・>
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02月28日(木)
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