ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
[61298hit]
■春の香は碧 【鳴門】 中編
「あーそれね。今日になってドタキャンされちゃって。いい迷惑だったよ」
もちろんキャンセル料はたんまりせしめたけど、とカカシが浮かべた黒い笑顔に、シカマルもそれ以上は突っ込まない。
「・・・で、折角ガイの体が空いたから、どうせなら、って俺が依頼したんだよ。材料調達から後片付けまで一式、全部やってくれ、って。ガイ班総動員で」
「仮にも上忍に、腐っても火影が、何て気楽に依頼してるンすか」
「腐っても、って・・・何かトゲを感じない? その言い方。
けどその分だとシカマルの家じゃ、今の季節食卓に出さないってコト? ヨシノさんなら手ずから、作ってくれそうだけどなあ」
「は? 俺んちの食卓に、っスか? 何を?」
「ヒントは、この香り。それと、今の季節限定の食材。・・・さすがの木ノ葉一の頭脳派も、分からないかな?」
「変なことで挑発しないでください」
半分からかわれているのを察したのだろう。目をつぶって春の香りを確かめながら、頭のデーターブックを総動員した後、おもむろにシカマルの口を突いて出た、言葉。
「フキノトウ・・・か?」
「ごうかーくv やっぱり君の知識の泉は広いねえ」
「それ、単にオッサンくさい、って言われてる気、するンすけど。
ちなみにうちでは、おふくろが天ぷらにします。揚げたてならそこそこいけるンすけど、冷めると結構苦いから、俺はあんまり食わねえな」
もっとも、と、切ない思い出にかられたらしく、少しだけシカマルの顔がうつむき加減になる。
「親父は、好きだったみたいですね。そう言えばこの季節、親父が家で夕食をとる日は決まって、食卓に並んでいた気がします」
「・・・そっか」
「去年やおととしは・・・どうだったかな。あの頃は色々といっぱいいっぱいで、食欲とかあんまりなかったから、出てなかったかも」
精をつける、と言う意味でも、息子が苦手なものを食卓に並べるような母親では、なかったろう。きっと、少しでも箸がすすむよう、好きなものばかり作ってやっていたに違いない。
今になってその配慮に気づいたと見えて、一瞬惜しむような表情を浮かべて両眼を閉じ。
再び開いた時には、シカマルにはいつものけだるそうな目が戻っていた。
「・・・それで、カカシさんのトコはどうだったんスか? 何か、味噌の匂いまでしてるけど、そう言う調理方法だったとか?」
「違ーうよ。俺の懐かしの味じゃなくて、あいつの親父さんの好物」
「は? ガイ先生の親父さんの味を、リクエストしたんスか? 何で?」
「んー。平和になったなあ、って思ってねえ」
「?????」
さすがのシカマルにも、その辺の事情は推理できないだろう。情報が足りなさ過ぎて。
───あの年の晩春。
何とか時間を見つけてカカシが見舞いに訪れると、ガイは病室で食事の真っ最中だった。
指に巻かれた包帯と痛みに悪戦苦闘しながらも、戸口の友人の姿を見つけた途端、いつもの開けっ広げな笑顔を向ける。
『火遁使いがいたんだって?』
『おうよ。結構ヤバかったな。何せ火に邪魔されて、なかなか近寄れなかったんだ』
『・・・どうせお前のことだ。無理やり火の中に突っ込んで、突破口を開いたんだろう?』
『さすがだな、そこまで見抜いているとは。それでこそ、マイ・ライヴァルだ!』
つい恒例のナイスガイ・ポーズをしかけて、指の痛みがぶり返したらしい。「痛くないぞおおおおっ!」と、無駄な気合を入れるのを、カカシはどこか安堵した気持ちで眺めていた。
───おそらくは、火遁使いが一番の難物だったのだろう。
むろん敵が単独で行動するわけもないから、他の仲間たちは別の忍たちからの攻撃をしのぐのが、精一杯で。何とか迅速に動けるガイが、やや強引な方法で火遁使いを倒した、といったところか。
両手指の大火傷は、その代償だ。
分かっている。それしか方法がなかったのだ、ということは。
けれど、もう少しやり方を考えろ、と思わずにはいられない。
[5]続きを読む
04月16日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る