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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■春の香は碧 【鳴門】 後編
あれからいくつもの季節が過ぎて、カカシにもガイにも、いろいろなことがあった。ガイも上忍へ昇格し、お互い担当上忍となり、部下を持ち、自らの技を彼らに伝授して・・・。
ガイの春の風物詩の方も、作ったり、作り損ねたりした。
去年はフキノトウを口にした覚えがない、とシカマルは言ったが、カカシもそうだった。ガイはその頃、懸命なリバビリに取り組んでいて、季節を感じるどころではなかったから。
・・・それだけの心の余裕が、なかったから。
幸い、木ノ葉の里は戦禍を逃れていたから、カカシは忙しい日々の合間にあの居酒屋を訪れ、店主に直接、ガイの負傷と無事を、知らせることが出来た。
店長は手放しで喜んでいた。情報が錯綜していて、一時はガイが戦死した、と言う誤報すら流れていたため、心配していたのだと言う。
ただ、彼が毎年フキノトウを収穫していたと言う秘密の場所とやらは、戦争のせいでかなり荒れたらしい。その年は何だかんだで、いいものは収穫できなかった、と嘆いていた。
『アタシもフキノトウも待ってるから、また作ってって伝えてくれない? ガイちゃんに』
知り合いが大勢亡くなって辛いから、病院には行きたくないのだ、と、店長は苦く笑った。
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そして今年。
火影となったカカシは忙しい毎日の中、たまたま外に出る機会があった。その際、徐々に暖かくなりつつある風の中に、懐かしい春の香りを嗅ぎ分けたのだ
不意に、あのほろ苦い味噌の味を口にしたくなって。
けれど自分は火影邸に詰めている身だし、ガイはガイで車椅子ながらも上忍として任務をこなしている毎日。とてもあの居酒屋に、揃って出かけられる状況ではない。
半分諦めかけていた矢先、本日のガイ班任務のドタキャンがもたらされたのである。
───このチャンスを逃したら、来年まで巡ってこないかも。
そう思うといてもたってもいられず、急いで居酒屋の店主に連絡を取った。今年のフキノトウの出来はどうなんだ、と。・・・わざわざ手紙をしたためて暗部に託したため、何かの極秘暗号と勘違いされそうになったのは、余談である。
すると、去年の分を取り戻すぐらいに豊作だ、と返事が来たのだ。
「ってわけで、話をつけた。ガイ班は店長と一緒に、フキノトウの収穫とその後のもろもろの処理をお願いねー。調理にはココの台所、貸すから。後片付けもお願いv」
「「「はあっ!?」」」
一見、下忍が割り当てられそうなこの唐突な任務に、ガイ班は皆、豆鉄砲を食らった鳩、みたいな表情になる。
「カカシよ・・・何もそんな任務、俺たちに頼まずとも・・・」
「他の班には無理だからね、この任務。
まずは、火影邸に出入りできるぐらい信用の置ける立場じゃないと、ダメだし」
「信用・・・あたしたちはそれだけ信用されてる、ってことなんですねv」
「当然だよー。それに、フキノトウの取れる場所って一応、店長の秘密の場所らしいから、そっちとも馴染みがないと教えてもらえないだろうし。あ、もちろん、他言無用だからね」
「も、もちろんです! 男に二言はありません」
口八丁に持ち上げれば、若手二人はあっさり陥落。
「それにあいにく、他の班は別の任務で全員、出払っちゃってるの。今日戻ってこられるかどうかも、怪しいし。おまけに、春の天気って変わりやすいでしょ? 今日は晴天に恵まれてるけど、明日から崩れてくるって話だし」
「むむ・・・仕方ないか」
まるであつらえたような状況に、さしものガイもそれ以上口を挟まない。
一方、まだまだ少年の域を脱していない2人の部下は、何やら楽しそうな素振りだ。
「それにしても、フキノトウかあ・・・ネジが結構、気に入ってたよね」
「そうでしたねえ。一度お弁当に焼き味噌を、手ずから作ってきたこともありましたし」
「「え?」」
思いもよらない言葉に、カカシとガイは目をしばたかせる。
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04月17日(金)
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