ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■天才ってヤツは・・・ モン◎ーターン

 どうやら同じくその光景を、つい思い描いてしまったんだろう。食堂のあちらこちらで、失笑をこらえているのが聞こえてくる。

 ・・・みんな聞き耳、立ててたんだな、やっぱり。

 周囲の空気に気づいていないのか、榎木さんはチラと蒲生さんを見ながら、気安い関係の人間ならではの軽い、悪態をつく。

「今どき信じられないことに、この人と来たら、家にテレビもビデオも置いてない時期があったんだからね」
「ええ!? でも以前お邪魔した時には、ちゃんと置いてあったはずじゃ・・・」
「あの直前に買い揃えたんだそうだ。必要に駆られて」
「何じゃ? 波多野まで。そーんなに悪いんか? テレビとかビデオとか家に置いとらんのが」

 すこーし気分を害した感じの蒲生さんが言葉を挟むも、この場の滑稽さに似た空気が拭い去れることはない。

「そういう意味じゃありませんよ。我々が競艇選手じゃないのなら、それもアリでしょうけど・・・」
「そ、そうか! だったら蒲生さん、どうやってレースの作戦立てたりしてたんですか? 相手選手の傾向とか、研究しようがないでしょ?」

 至極ごもっともな質問を波多野くんがぶつけるも、蒲生さんはきょとん、としている。

「事前に作戦立てたりは、せえへんもん。その場その場でレース見て臨機応変に直感で、こうすればええか、って思うだけで。だからビデオなんか、いらへんやんか」
「・・・そういうことができるのは、蒲生さんぐらいですって・・・」

 既に榎木さんは、笑いをこらえきれていないし。
 波多野君と来たら、あんぐりと口が開きっぱなしになっている。

「そ、そう言えば以前、勝木と一緒の時言ってましたね?『エースペラ1枚あれば、あとはモーターをそれに合わせて整備すれば何とかなる』とか、何とか・・・」
「ええ!? 何だよそれ? じゃあ蒲生さんて、ペラの予備持ってないんですか!?」

 波多野くんからの「証言」に、僕は思わず口を挟んでしまい、周囲の注目を浴びてしまう。
 でも、幸いにも蒲生さんは、咎めたりはしなかった。

「おお、持っとらんかったぞ。ペラ作りっちゅうて何や、メチャクチャ苦手でのー」
「・・・威張れることではないと思うんですが」
「ギャグなんかじゃなくて、マジだったんスね・・・エースペラ壊したから『仕方なく』ペラ小屋行った、って言うのは」

 榎木さんは苦笑で答え。
 波多野くんは理解できない! とばかりにうんざりしたような顔になっている。

 無理ないけどね。波多野くんって、ペラ作りの師匠として古池さんのところへ弟子入りするまで、結構苦労してるから。
 おまけに、古池さんに弟子入りした後もしばらく『勝手にペラを叩くな!』って約束させられていて、その直後にエースペラを壊したりしてたっけ。

 ペラがそこそこでもモーターを調節してレースに勝つ───なーんて蒲生さんの破天荒ぶりは、信じられないの一言なんだろう。・・・僕だって信じられないけど。

 しかし、競艇選手って言ってもホント、色んな人がいるんだなあ。

 妙に新鮮な気分で、食後のコーヒー中の蒲生さんを眺めていたら、こちらは食事中の榎木さんに、何故か声をかけられた。

「確か君、岸本くん、だったっけ?」
「は、はい、榎木さん。岸本寛って言いますっ!」
「波多野から、時々噂は聞いてるよ。努力家で、コツコツ地道に成績を伸ばして来た、自慢の同期だって。今節、随分頑張っているようだね?」

 うわ、榎木さんが僕のこと知ってたなんて!
 それも波多野くんが、僕のこと自慢の同期だなんて言ってたなんてっ!!

 二重の意味で感動していたら、榎木さんの表情が徐々に、何とも複雑なものへと変化していくのが見て取れて、首をかしげる。

「まあ・・・岸本くんが興味を示すのは、無理もない話か」
「は?」
「イヤ、レーサーとしての蒲生さんに」
「え、ええ」
「一つ、私から偉そうに忠告させてもらうが。

絶対、蒲生さんみたいになろうなんて、考えない方がいいよ?」

 何やら榎木さんは、やけにしみじみとした口調で僕に言う。

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11月28日(月)
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