ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
[61407hit]

■茂保衛門様 快刀乱麻!!(14)≪前編≫
 それらは全て、怨霊の勇之介から目を離さないまま移された行動だ。今、下手に彼から視線をそらせようものなら、張り詰めた緊張感が一気に瓦解してしまうだろう。
 ・・・だから誰も、今のあたしの大火傷の具合を聞いて来ようとしない。気にはしているらしく、あせっている様子は伝わってくるんだけど。
 あたしもあえて、皆の『無関心』にはこの際、目を瞑ることにしている。正直現状は、あたし1人の火傷云々の問題じゃ、ないからね。(さっきから何度も痛みで目を瞑ってるじゃないか、ってのはナシよ)

 ・・・などと、あたしがそうやって、苦しい息の下からも何とか周囲の状況を把握している間にも、お夏の悲痛な嗚咽はやまず、勇之介の戸惑う声もそれに続く。

 そう。お夏の登場により、明らかに勇之介は困惑していたのである。


「やめてよ、勇之介ちゃん・・・お夏ヤダよ・・・おとうが勇之介ちゃんに殺されるなんて・・・」

 ───ダ、ダケド、ソノオジサンガ僕ヲ小津屋ヘ連レテ行カナカッタラ、
僕モ姉上モ・・・。

「おとう、勇之介ちゃんのこと、ずっと誉めてたんだよ? 体は弱いけど、優しいコだって。お夏がお嫁さんになってあげるんだ、って言ったら、それもいいかもな、って言ってくれたたんだよ? なのに・・・」

 ───デ、デモ、ソノオジサンガ止メテクレタラ、
姉上ハ火アブリニナラナクテ済ンダンダ・・・。


 どうやら勇之介の怨霊は『自分たちを救ってくれなかった人間に対して復讐する』って考えに、凝り固まってしまってるみたい。だから、いくらお夏が懸命に訴えても、決まりきった一辺倒な返事しか、出来ずにいるのだ。先ほどから比べれば随分と、気持ちが揺らいではいるみたいだけど

 そのことを、お夏も幼いながらに気づいたんだろう。涙をきゅっ、とばかりに拳でぬぐうと、とんでもないことを提案してくれたのだった。
「だ・・・だったら勇之介ちゃん、お夏も殺してよ・・・」

 ───!?

「お夏、おとうが殺されるのも、勇之介ちゃんがおとうを殺すのも、見たくないもん。だから、それを見ずに済むんだったら・・・」

 何てことを口走るんだ、この子は・・・!

 その場にいた一同は、そろってそう思ったろう。いくら知り合いとは言え怨霊相手に自分を殺せ、なんて言い出すのは正気の沙汰じゃない。ましてやそれが、年端も行かない少女では尚更・・・。

 が、そう思ったのは大人たちばかりではなかったようで。

 ───ド・・・ドウシテ僕ガ、オ夏チャンヲ殺サナキャイケナイ・・・? 

 目に見えて勇之介は混乱し始めた。

 ───僕ガ殺サナキャイケナイノハ、姉上ヲ苦シメタ奴ナンダ・・・。
オ夏チャンハ違ウ・・・ケド、オ夏チャンノ父親ハ、
姉上ヲ助ケテクレナカッタンダ・・・。
デモ、オジサンヲ殺セバ、オ夏チャンモ苦シム・・・。
アア・・・苦シイ・・・オ夏チャンヲ悲シマセタクナイノニ・・・
オジサンヲ殺サナカッタラ、姉上ガ浮カバレナイ・・・
姉上ノ無念ヲ晴ラセバ、オ夏チャンガ苦シム・・・
姉上・・・オ夏チャン・・・アア・・・・・苦シイ・・・
ドウシテコンナニ苦シインダ・・・!

 勇之介は苦悩しているのだ。姉の無念を晴らすことは、お夏を苦しめることを意味する。おそらくは比べることが出来ぬほど、どちらも彼にとっては大切な存在だったのだろう。

 ───いつかお夏が、お嫁さんになってあげるね・・・。

 気を失っていた間に見た、あの幻を思い出す。
 どうしてあたしがあんなモノを見たのかは分からない。けどきっとアレは、楽しかった頃の勇之介とお夏の思い出なのではないか。・・・何の根拠も脈絡もなく、あたしは唐突にそう思った。

 ───だとしたら! 起死回生するなら今しかないってことじゃない!

 そう判断したあたしはとっさに、声を張り上げていたのだった。死せる勇之介に向かって。


「あなた、勇之介でしたね! あ、あんたは今あんたが味わってるその苦しみを、このお夏にも味あわせようとしてるのよ! 分かってるの!?」

 ───ナニ・・・?

[5]続きを読む

12月28日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る