ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
[61432hit]

■茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−1 外法帖
 御厨さんのような竹刀ダコもなく、《龍閃組》の連中のような妖力も使えない、これっぽっちも男らしくも武士らしくもない、なまっちょろい手を・・・。

*********************

 その時、部屋の外に人の気配を感じた。
「・・・榊さん、起きていらっしゃいますか」
 眠りを妨げぬよう、静かに押さえたその声は、御厨さんのもの。
 あたしがつい返事をせずにいると、もう1度。
「榊さん・・・」
「・・・起きていますよ」
 溜め息を1つ吐いた後、あたしはゆっくりと身を起こした。

 御厨さんは廊下から障子越しに、そのままあたしに用件を伝える。
「お休みのところ申し訳ありませんが、目通りを願いたいと申す者が来ております」
「あたしに? 誰なんです?」
「それが・・・岸井屋の女房と息子でして。どうしても相談したいことがあるから、と」
 ───岸井屋ですって?
 あたしの脳裏に、亭主の死を悼みつつも、詰所って事でどこか居心地悪そうにしていた女の姿が浮かんだ。
 だけど・・・確か岸井屋って、奥方と一緒に来ていたのって番頭だったんじゃなかったかしら?

「女房と一緒に来ているのが、息子なんですか? 今日ここへ来た番頭じゃなく?」
「はい、親に良く似た息子です。どうなされますか?」
「・・・会いましょう。今行きますから、待たせておいて下さいな」
 そう言って、一旦御厨さんを下げようとしたあたしだけど、ふと思うことがあり引き止める。
「・・・あたし、何刻ぐらい休んでいましたかしらね?」
「半刻(約1時間)ほどかと。申し訳ありません。折角休んでおられたのに・・・」
「気にする事はありませんよ。事件は待っちゃくれないし、それに少なくとも、目の疲れだけは取れたみたいですから。・・・悪かったですね、色々と気を遣わせて」
 思わず付け加えた言葉は、照れのせいかどこかぶっきらぼう。多分そのことが分かったんでしょうね。「いえ」とだけ答えながらも御厨さんが、どこか笑いを含んだような声になっていたのは、単なるあたしの気のせいかしら。

*************

 すこしだけ乱れた髪に櫛を通し、脱いでいた羽織に手を通してから、あたしは詰所に姿を見せた。
 そこには御厨さんの言う通り、今日会ったばかりの岸井屋の奥方と、目鼻立ちが母親似の息子が待っていた。あたしの顔を見ると、恐る恐る頭を下げる。
「・・・相談したいことがあるそうですね。今回の事件と、何か関係があるのかしら?」
 あたしがそう持ち掛けたところ、奥方は「関係あるかどうかは分からないのですが」と前置きした上で、話を始めた。
 その横で、年のわりには利発そうな息子が、挑むような眼差しで睨んでくる。多分、あたしが母親に言葉だけであろうと害を与えようものなら、たちまち噛み付いてくるぐらいはするだろう。
 父親がいない今、母親を助けられるのは自分だけ───そう心に決めているのが見て取れて、あたしは痛ましさと共に羨望を、彼に感じたわ。
 すっかりヒネちゃったあたしには、多分こんな瞳をするのは無理でしょうね。

「実は・・・主人の身の回りのものを整理しておりましたら、変なものが見つかったのでございます」
 そう言って、奥方が取り出したのは何やら重そうな風呂敷包み。
「まるで人目を避けるかのように置かれていたのでございますが、このようなものをどう扱っていいものか分からず、こちらへ来た次第で・・・」
「律義者の番頭に相談しても良かったんじゃないですか?」
 とりあえず牽制してみたら、奥方の表情は見事に強張った。
「店のことならともかくも・・・夫としての又之助の相談は、あの男になどしたくはございませぬ」
 ・・・なんだか、随分とややこしい人間関係がありそうよね。でも、それでわざわざ息子を連れてきたって事なのか。血の繋がりのある、実の息子の方が信頼が置けるって事なんでしょうね。
 奥方は風呂敷包みを解こうとしたが、手元がもつれてなかなかうまくいかないみたい。別にもったいぶってるんじゃないんでしょうけど、いい加減イライラして来たあたしは、そばにいた与助に代って貰った。

[5]続きを読む

04月26日(金)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る