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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(3)−1 外法帖
あたしも、そして御厨さんもそれこそ戸惑っていたら、番頭は少し苛立ちの混じった声で、こう言ったじゃないの。
「何って・・・覚えていらっしゃらないので? 手前どもの旦那様は、こちらの火附盗賊改方に呼ばれたんでございますが。・・・一月前の、おろくと言う女が火付をした大火事───あの火付をしたのが、他ならぬ旦那様だと間違われたせいで」
何ですって───!?
御厨さんがあの番頭に見覚えがあるわけよ。
彼は、さっき言ってた火事の件で引っ立てられた主人が心配で、この役宅まで足を運んでいたんだから。
でも、あたしたちが岸井屋の主を忘れていたからって、そっちも責められる筋合いはないわ。
だってこのところあちこちで火事やら、押し込み盗賊やらであたしたちは連日大忙し。自分が最後まで担当したんならともかくも、途中で人に任せた事件まで覚えてられるわけ、ないじゃない。どうせ文句を言うんなら、事件を起こした盗賊たちへにして頂戴な。
とりあえず岸井屋たちを死体共々帰してから。
あたしと御厨さんは大慌てで過去帳を漁ったわ。番頭が言ってた火付の件を再確認するために。
*********************
一月前の大火事───それは、一時期世間の関心を集めた事件だった。
風の強いある日の昼四ツ(※現在の時刻に直すと午前10時)過ぎ、日本橋の呉服屋・小津屋から上がった炎はまたたくまに付近の家々まで燃えつくし、主一家を含む死者九名(全員焼死)、重軽傷者(ほとんどが火傷)弐拾弐名、延焼家屋八棟と言う大惨事を引き起こした。
ただちにあたしたち、火附盗賊改が出張る事となったのは、ま、当然の事よね。
もっとも、この小津屋って商人は店を大きくするためにって、裏では結構あくどい事をしてたって有名だったのよ。加えて、主を怨んでたり、殺したいと思ってた人間は山ほどいた。もし火事の原因が失火ではなく火付だったとしたら、犯人探しにはかなりの日数を要するとあたしたちは覚悟してたんだけど・・・予想もつかない形で、下手人がアッサリ御縄となったの。
きっかけはまず、小津屋裏手の焼け跡から、身元不明の子供の焼死死体が発見された、って事からだったわ。
年の頃は十ほどのその子は、何故か小津屋夫妻の子供でも、奉公人の子供でもないみたい。身元を判別できそうな手がかりと言えば、わずかに焼け残った衣類と、後頭部に残った小さな怪我の跡。・・・でも怪我の方は新しいらしく、多分逃げる時に転ぶか何かしたもので、そのまま気絶して焼け死んでしまったのだろう、と言うのが医者の見立て。死骸の身元を証明するものには、なりそうにもなかった。
大体、小津屋の人間ではない者がどうしてここに・・・って首を傾げていたらそのうち、ある女が「自分の弟かも」と、焼け跡で検分中だった火附盗賊改の役人に名乗りをあげて来て。死体を検めさせたところ、着物の焼け残りとか背格好でどうやら間違いない、ってことになっちゃったわけ。
そしたら彼女その場に泣き崩れちゃって、戸惑う皆に向かってこう言ったらしいわ。
「私が小津屋に火を付けたんでございます。どうか早く死罪にして下さいませ」
・・・ってね。
聞けば驚くじゃない。妙に美人だと思っていたらその女、焼け死んだ小津屋の妾・おろくだったって話なのよ。
何でも両親は早くに亡くなって、病弱な弟を生き長らえさせるには大金が必要と来る。それで好きでもない男の囲い者に渋々なっていたんだけど、先日いきなり今まで住んでいた家を追い出されちゃったんですって。どうやら旦那の方に新しい女が出来たもんだから、古い妾はお払い箱になったってことね。
自分はともかくも弟の方は、旦那の援助がないととても生きて行けない。それで何とか思いとどまって欲しいって、何度も頼みに言ったおろくを、小津屋は無情にも嘲笑ったらしいの。
「お前の弟がのたれ死のうと、そんなことはこちらの知った事ではない。そんなことを言いに来る暇があったら、さっさと岡場所でも行って客を取ったらどうだ。まあもっとも、とっくに薹(とう)が立っちまってるお前を買ってくれる男がいれば、の話だが」って。
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03月15日(金)
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