ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
[61432hit]

■茂保衛門様・快刀乱麻!(2)外法帖
「うーん、考えとしては悪くないわね・・・だけどあたしが見てた限り、ホトケさんは燃え上がる直前まで、1人で何かブツブツ言っていてね。みんな気味悪がって近寄ろうとしてなかったのよ。それに、被害者の火傷が一番酷かったのは、ちょうど胸の辺り。つまり、胸に火をつけられた、ってことなの。確かに袖とか、裾とかに火をつけられたのなら、かなり前に火をつけられていて気づくのが遅れた、って事もあるでしょうけど」
「いくらなんでも、胸に火が点いて気がつかねえ馬鹿はいねえっすね・・・」

 再び考え込んだ与助は、しばらくしてポンと手を打つ。
「火矢、ってのはどうっす?」
「かや? 燃料を入れた筒を括り付けた矢に、火をつけて飛ばすって奴?」
「そうっすよ。それなら遠くから飛ばせるし、目撃もされにくいと思いやせんか?」
「確かに目撃される危険はなくなるけど・・・」
 あたしは御厨さんの読んでいる帳面をちら、と見やって、検分記録を思い出しながら言った。
「・・・そうなると、当然現場には矢が残るわね。でもあたしが見た限り、そんなもの残ってなかったの。奉行所の検分でもそうなってたしさ」
「飛ばす前の矢に紐も括り付けておいて、刺さると同時に引っ張るとか」
「あの時の火の勢いじゃ、きっと紐も燃えちゃうでしょうね・・・。燃えない鎖紐って考えもあるでしょうけど、それじゃあ逆に矢が重くなって飛ばないでしょうし」
「現場に残らないものってんなら・・・そうだ、火の点いた布か紙に石を包んで、遠くから飛ばすって言うのはどうです? 石なら、元々地面に落ちていたものと区別がつかないし、布も燃えて証拠隠滅、ってことで」
「・・・あんた、何ならやってみる? そんなことやったら投げる前に大火傷、下手すりゃ自分の方が先に焼け死んじゃわない?」
「・・・・・・・・」

 あたしの立て続けの冷たい指摘に、さすがに与助は半泣きになっている。ふん、根性なしなんだから。
「何なんすか〜〜! あっしの言うことにいちいち茶々を入れるなんて〜〜。それなら榊様は何か、代案でもあるんスか〜〜?」
「ないから困ってるのよ」
「・・・へ?」
 それでも一縷の望みをかけて、一応聞くだけ聞いたんだけどね。あたしの頭が御厨さんに負けず劣らずおカタくて、考えうるべき仮説が1、2個抜けてるんじゃないか、って思ったから。自分1人で考えてるよりは他人の意見も聞いた方が、偏りが少なくて済むし。
「分かる? 与助。こうなると他人からの火附け、って疑いが極めて低くなっちゃうでしょ」
「・・・ごもっともで」
「だから一挙に考えを飛躍して、被害者自身の火附けか、あるいは事故、って可能性も考えたんだけど・・・」

「無理ですよ榊さん・・・それも有り得ないんでしょう?」
 ここで初めて。
 ただひたすら帳面の文字を目で追い続け、今までずっとあたしと与助の話にも口を挟まずにいた御厨さんが、視線をこちらへ向けた。
「被害者が亡くなった当時の所持品には、煙草や火打ち石の類はありません。おまけに油の類も見つかっていないんです。それらが燃えた残骸もない・・・事故にしろ被害者自身の火附けにしろ、火種も燃料も持ち合わせていない人間に、火をつけるなんて無理だ・・・」
 御厨さんはそう締めくくってから、静かに机の上へ帳面を乗せる。
「・・・榊さんがこの事件を引き受けられるのを渋られたのは、こういう事情からなんですか? どう考えてもこの事件、普通の人間の仕業じゃありえない・・・」

 彼の顔色は相当悪い。
 ───それはそうよね。この検分記録と、あたしの目撃談から察するに、被害者は人間業とは到底思われない方法で、火をつけられて殺された、ってことになるんだもの。
 でも、仮にも火附盗賊改の与力が、事件解決の目処(めど)が立ちそうにないからって臆してた、なんてみっともなくて言えないじゃない。
 だからあたしは、逆に御厨さんへ質問してあげた。
「御厨さん、あなた、幽霊とか鬼の類、斬り殺した経験おありになるかしら?」
「・・・・・いえ、あいにく・・・・・」

[5]続きを読む

03月07日(木)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る