ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■過ぎし夢 来たる朝(3)外法帖・天戒×女主?
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早朝、いつものように目が覚めた九桐尚雲は、たらい桶で顔を洗いながらも少しだけ違和感を感じていた。
別に体の調子が悪いわけでもない。村に不穏な空気が流れているのでも。
───では一体何故、と考えた時に、やっと彼は思い至った。
いつもなら、自分より先に起きていたらしい龍斗と顔を会わせるのに、今朝はまだ一度も彼女を見掛けていないのだ、と・・・。
彼女の体調がすこぶる悪いのは、風祭に言われるまでもなく気がついていた。どうやら夜、眠れないでいるのだとも聞いている。
そのくせ本人は律義にも、朝早く起きてくるのだ。もう少し横になっていても誰も咎めはしまいに・・・内心懸念していただけに、彼は安堵に胸をなで下ろす。
多分昨夜、きちんと眠る事が出来た証拠だろう───そう解釈した彼は、同じく彼女の珍しい不在に「様子を見てくる」と言い出した風祭を慌てて制するのだった。
「大体彼女も、ああいう格好をしているとはいえ女人だぞ、風祭。深い仲でもない女の寝起きの顔を見るのは、礼儀を失すると言うものだ」
廊下を歩きながら、九桐は後から歩いて来る風祭にそう言い含める。
「何でだよ? 大体、あいつが女だって分かるまでは、俺もあいつと同じ部屋で寝起きしていたんだぞ。今更寝起きの顔ったって・・・」
「女は特に、身だしなみに気を払うからな。自分がだらしない、と思っている姿は他人には見せたくないのだろう」
「・・・何かやけに詳しくないか? 九桐。坊主って、女とは無縁でいなきゃいけないんじゃなかったのかよ」
「ははは、俺は破戒僧だからなあ」
「それを言うなら生臭坊主だろ・・・」
言い合いながら2人が辿りついたのは、天戒の部屋の前である。珍しく天戒も、今朝はまだ起きて来ていなかったためだ。
───ここで九桐が、天戒と龍斗が「2人揃って」起きて来なかった、と言う点に思い至らなかったのは、あるいは迂闊だったかもしれない。自分で風祭に言っておきながら、龍斗が異性なのだと特に意識していなかったのは、実は彼自身だったとも言える。
「若、そろそろお起きになられませんと・・・」
───ともあれ。
彼はまず外から声をかけてから、静かに部屋の襖を開けたのだが・・・唐突に動作が停止した。
「?」
相棒の異変に気づいた風祭が、まずは九桐に、それから天戒の部屋の中へと視線を転じ───やはり硬直した。
「た、たたたたたた・・・・・・・・・」
そう言ったきり、耳まで真っ赤になった風祭の前にいたのは。
「誰かに」腕枕をしてやっているような体勢で寝入っているこの部屋の主・天戒と。
その横で、どうやらやっと事の次第を把握したらしく、風祭に負けず劣らず真っ赤になっている龍斗が。
同じ布団の中にいる姿であった。
「た、龍斗、お前何時の間に御屋形様とっ・・・」
風祭は動揺のまま大声で叫びそうになったが、そこで我に返った九桐に口をふさがれる。
「むごむごむごっ!」
「声が大きいぞ、風祭。まずは落ち着け」
小声で諭され、渋々風祭は黙り込む。それを見守ってから、九桐はコホンと咳払いの後、静かに呟いた。
「お前が若の部屋にいると言うことは・・・龍斗、お前が夜這いに忍んで来たのか? いつものお前らしからぬ大胆さだな・・・」
「ち、ちちち、違うって」
龍斗の顔色は今や、真っ青になっている。
「仮にも桔梗を差し置いて・・・じゃなくて、天戒殿の同意も得ないのにそんなこと・・・でもなくって、ええと、違うんだ、そうじゃないんだ・・・」
彼女がわたわたと慌てふためく様を見ながら、さしもの九桐も自分の顔が強張っているのを自覚せずにはいられない。
しかし、いくら天戒も龍斗もちゃんと着物は身に付けているとは言え、このような風景を目の当たりにしては他に解釈の仕様がないではないか。
龍斗が、天戒と、昨夜、同衾した、と言う状況以外には!
が。
「・・・・・・・・・・・・・っ」
「?」
「くっ・・・くっくっくっ・・・・・・」
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02月28日(木)
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