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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■春の香は碧 【鳴門】 中編
「ひどい戦闘があってね。みんな全滅するかも、って覚悟したぐらいに、ひどいの。けど、ガイちゃんだけは前向きでねえ。

『絶対に生きて帰るんだ、だから皆も頑張れ!』

って叱咤激励されちゃった」
「はは、ガイらしいな・・・」
「でしょでしょ? おかげで全員、無事木ノ葉に帰り着くことが出来たんだけどね」


 見れば店長は、自分で作ったというフキノトウの焼き味噌を、手近な器に盛り付けている。


「その時のアタシ、結構ヤバい怪我してて。もし意識を失っちゃったら、そのままこの世とはサヨウナラ〜、って状況だったの。だから、ガイちゃんってばアタシに肩を貸しながら、何かと色々話しかけてくれててね、意識を途切れさせないようにしてくれてた」


 そうして、見栄えだけはガイの作ったものと遜色ないものを、カカシに差し出した。


「その時に話してくれたことの1つが、このフキノトウの焼き味噌の話。ガイちゃんのお父さんの好物だったんですって?」
「そう、聞いてるよ」
「任務で収穫の手伝いに行った時、そこの農家の人から作り方を教わったんですって。
あんたたちがこの辺を守ってくれてるから、今年もこの平和ないい香りと再会することが出来たんだ───って、そのお礼に」
「・・・それで?」
「何となく、察してるでしょ? その思い出話聞いてるうちに、これ以上ないってご馳走に思えてさ。食べてみたいな、ってアタシがつい言ったら、『生きて帰ったらいくらでも作ってやる』って、ガイちゃんが約束してくれたってワケ」
「それを律儀に、今でも守ってるわけだ、あいつは。・・・マメだねえ」


 ───自分以外の人間にも、相変わらず熱血で情熱的な態度をとってたんだ。


 それが微笑ましくて、それでいて少し悔しい気持ちもして。
 カカシは軽く両手を合わせてから、店長お手製とやらの焼き味噌を口にした。

 似た香りで、似た味、似た苦さ。
 それでもやはり、あの時食べたものとは何となく、違う味。


「これはこれで、結構美味しいんだけどなあ・・・」
「でしょ? でもどこか、味気ないのよねえ」


 アタシの熱血と根性と青春が足りないのかしら? と本気で首をかしげる店長に、カカシは思わず吹き出す。



 ───任務は無事遂行したものの。
 ガイが両手に大火傷を負い、木ノ葉の病院に担ぎ込まれた、とカカシが聞いたのは、それから10日後のことだった。







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「あの・・・カカシさん?」
「何? シカマル? その書類にはちゃんと、サイン入れたデショ?」
「いえ、そのことじゃなくて・・・」


 その日。
 六代目火影として、執務室でさまざまな雑務を進めていたカカシは、彼の側近となった奈良シカマルに、それは怪訝な目を向けられた。

 何かしくじりでもしただろうか? と首をかしげていると、「プライベートに口出ししたくはないんスけど」と前置きした上で、シカマルはぼそぼそ、と言葉をつなげる。


「その、さっきからこの辺一帯に漂いまくってる、青臭いっていうか、独特の匂いが気になって。・・・何なんスか?」
「え? ああ、これ? ゴメンゴメン、すっかり鼻が慣れちゃったから、意識してなかったよ。ひょっとしてシカマル、こう言う香りって苦手な方?」
「苦手、ってほどじゃねえけど。・・・漢方薬でも煎じてるとか?」
「漢方薬、ねえ。まあ、広い意味では、似たようなものかもしれないけど」


 ───ナルトたちと比べて随分大人びていると思ったんだけど、意外にそうでもないってことね。いい香り、って思えるには、もう数年必要ってトコロ?


 何だかんだ言って、シカマルもまだまだ青年の域なんだな、と、ちょっとだけ微笑ましくなるカカシである。


「どっちかと言うと、ご飯のお供というか、酒の肴、の類だよ。ガイに頼んで、厨房で作ってもらってるんだ」
「・・・ちょっと待ってください。ガイ班って、今日から短期の里外任務のはずじゃ」

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04月16日(木)
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