ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■天才ってヤツは・・・ モン◎ーターン
 一瞬。
 食堂内の空気が固まった、と感じたのは、絶対僕の気のせいなんかじゃない。
 はじめの衝撃が収まったんだろう。波多野君は慌てて説明を試みてる。

「あ、あの、蒲生さん? でーぶいでーじゃなくて、DVD。CDみたいのにTV番組録画するヤツですって」
「はあ? CDにどうやって録画するんじゃ? どうやってCDプレイヤーで再生するんじゃ? テレビにCDプレイヤー繋ぐんか?」
「い、いえ、そうじゃなくてですね・・・」

 ・・・ああ、みんなこっち注目してるよ。興味津々な顔で。見ないフリはしてるけど。

 だって蒲生さんだよ?
 SG2つも獲ってる蒲生さんが、だよ?
 今どきDVDを知らないなんて、何の冗談だって思っちゃうじゃない。

 でも、だったら蒲生さんってどうやって、レースごとの作戦立てたりするんだろう?

「こっち相席、かまわないかな?」

 僕が混乱と動揺で頭を抱えてたら、また頭上から声がかけられた。
 慌てて起き上がったら・・・そこにいたのは艇王・榎木さん!?

「ど、どうぞっ!」

 ・・・声が上ずってるの、勘付かれたかな?

 波多野くんや洞口くんだと、よくSGで戦ったりしてるからそんなに気後れもしないんだろうけど、僕にとっての榎木さんって、まだまだ雲の上の存在だから。

 榎木さんは苦笑らしきものをちょっとだけ浮かべ、食事のために席に着く。
 と、さっきまで波多野君と漫才会話(にしか聞こえない☆)を繰り広げていた蒲生さんが、何の屈託も感じられない声で榎木さんに声をかけた。

「おお、榎木ー。ちょうどええところに来たわ」

 聞いた話によると、蒲生さんって榎木さんの1期先輩で、新人時代から仲が良かったらしい。僕じゃ緊張するしかない榎木さん相手に、こうも自然体な会話ができる辺り、何だか納得気分だ。

 それで榎木さんは、と言うと。
 どうやら、蒲生さんが僕らと相席していたことには気づいていたみたいで、声をかけられたこと自体はそんなに驚いていなかったんだけど。
 声につられて蒲生さんの方へ顔を向けた時、ちょっと怪訝そうな顔になった。

「・・・? 蒲生さん、一体波多野に何やったんですか? 随分疲れてるみたいですけど」

 見れば、もはや説明に疲れ果てた、と言わんばかりの波多野くんがテーブルに突っ伏している。

 気持ちは良く分かるよ。うん。

 そんな僕らの気持ちを知ってか知らずか。
 蒲生さんは再びこの場に、爆弾を投下してしまったのである。あっさり、しれっと。

「イヤ、何や分からんことがあっての。波多野に説明してもらっとったんじゃ。
なあ榎木、でーぶいでーって・・・何や?」

 ・
 ・
 ・

 皆が固唾を呑んで見守る中。
 榎木さんは予想通り、数秒間見事に固まった。
 が、さすが艇王というべきか? 僕らよりは幾分か早く立ち直り、もう一度蒲生さんに確認する。

「DVD、ですか?」
「おお。よお分からんきに」
「・・・・・・。またですか、蒲生さん」

 苦笑と諦めとがない混ざった、それはそれは複雑な笑みを浮かべながら、榎木さんはため息をついた。
 その言葉に、今まで疲れ果ててたはずの誰かさんが、すかさず復活。

「あの・・・榎木さん?『また』って、どういう意味なんです?」

 よしっ、波多野君ナイス!
 僕らみんなが疑問に思ってることを代わりに聞くのは、君に一任したからねっv

「言葉の通りだよ、波多野」

 どこか笑いをこらえたような顔で、榎木さんは波多野君に答えてくれる。

「私たちがまだルーキーの頃だったかな。やっぱり斡旋先の食堂で、こんな風に私を呼び止めて、この人が聞いてきたんだよ。『VHSって何か?』って」

 その途端。
 よせばいいのに僕の想像力ってば、「さっき僕らに聞いてきた表情そのまんまで、ルーキー時代の榎木さんに尋ねる蒲生さん」って言うのを、瞬時に頭の中で形成してしまったんだよね。

『なあ榎木、ぶいえいちえすって・・・何や?』

 ・・・ぷっ☆

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11月28日(月)
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