ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!!(14)≪中編≫
『アレと同じ方法を取ろうにも・・・奈涸がいるならともかく、ここにいる連中で変装の名人なぞ、いないようだしな・・・』

 そうやって。
 あたしには意味不明な言葉が飛び交ってはいるものの、どうやら解決法が見つからないことだけは把握し始めた頃、だった。


「ね、ねえ、どうなったのさ京梧、榊さんたちは無事なの? 炎の鬼はどうなったのさ?」
「こ、こら小鈴殿、いくら妖気が薄れたからと言っても・・・」
「そうよ小鈴ちゃん、私たちが勝手に入ったのでは皆の邪魔になるわ」

 外で待機していたらしい《龍閃組》の残り3人、桜井小鈴、醍醐雄慶、美里藍が、表の木戸からそっ・・・と顔を覗かせた。
 一瞬、あたしが勇之介に確約した『今件のもみ消し』のことが部屋の外にいた住人にも漏れたんじゃ、と危惧を抱いたけど、それは杞憂に終わりそうだわね。
 どうやら3人は、室内の雰囲気を敏感に感じ取って危険はないものと判断しただけ、みたいだから。でなきゃ「炎の鬼がどうなった」なんて間の抜けた質問は、出てきませんものね。

 とは言え。
 とりあえず絶体絶命の状況から脱しはしたものの、予断を許さないのは事実で。
「お前ら・・・今取り込み中なんだよ、いいから表のみんなを宥めていてくれって・・・」
 呆れ半分、いらだたしさ半分の京梧がそう言いかけたのを、意外な存在が遮った。


 ───ア・・・姉上・・・?

 蓬莱寺言うところの『取り込み中』の最大の要因である、勇之介だ。彼は今までになかった唖然とした様子で、開けられた木戸の方を見つめていたのだ。
 彼の視線の先に立っているのは、どうやら美里藍のようだけど・・・。

 途端、あたしの側にいた《鬼道衆》が、小声ながら騒ぎ出す。

『ちょ、ちょいと八丁堀、勇之介の姉君って、美里藍に似てるのかい?』
『あいにく知らん』
『おい、大事なことなんだよ。もし似てるんだったら、うまくすれば勇之介を成仏させてやれるかもしれねえんだって』
『そ、そう言われても・・・俺は結局、おろくには会ったことがないんだ。多分榊さんも』
『こうなったら、2人が似ていることを望むのみだな・・・』

 彼らの会話から察するに、どうやら美里藍は、勇之介の姉・おろくと似たところがあるらしい。
 ・・・けどだからって、どうなるってえの? どうやって成仏できるって言うのよ? 《鬼道衆》が出来なかったことを、《龍閃組》なら出来るとでも言うわけ?

 あたしの懸念と皆の期待を他所に、当の美里藍は勇之介の存在に気がついたらしい。自分は桜井小鈴を止めていたくせに、まるで引き寄せられるかのように中に入って来た。
 そして。

「・・・ごめんなさいね・・・」

 焼け爛れた顔の勇之介に相対しても目をそらすことなく、美里は慈愛に満ちた悲しそうな表情を怨霊に向ける。

「あなたが苦しんでいるのが分かるのに・・・私には何も出来ない・・・ごめんなさいね・・・」

 そう言って、懐から取り出した綺麗な手ぬぐいで、勇之介の目の辺りをぬぐうようにした。
 どうしてそんなことを? 背後から見守る格好となったあたしたちはそう怪訝がったが、じきに理由が分かった。
 勇之介は泣いていたのだ。はらはらと、大粒の涙をこぼして。

 ───ゴメンナサイ・・・僕ガモット強カッタラ、姉上ヲ守ッテアゲラレタノニ・・・。

 美里は何も言わない。ただ黙って、勇之介の言葉を聴いているだけ。

 ───ズット謝リタカッタンダ。最期マデ心配カケテゴメンナサイッテ・・・デモ、モウ心配シナイデイイカラネ、姉上。

 言って勇之介は柔らかに笑んで見せた。そう、焼け死んだ時の焼け爛れた顔ではなく、おそらくは生前のままの、結構端正な顔立ちで。
 ひょっとしたら・・・あの焼け爛れた醜い顔は、恨みに縛られた象徴だったのではないか、とあたしは埒もなく、そう思えてならなかった。
 そして、おそらくは生前と同じ優しい目線を、勇之介は今度はあたしの抱きかかえたお夏へと向けたのである。


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12月29日(月)
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