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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!!(14)≪前編≫
つまり、あたしはいわば孤立無援。手負いの上、頼みの綱の『村雨丸』まで放り出してしまっている今、体を張る以外、女童を庇う方法なんてないのだ。
呼吸するたびにビリビリと来る痛みを懸命に堪え、あたしはゆっくりと目を開けた。そして体を起こしながら今一番の懸念事項である、勇之介の怨霊の姿を探すことに意識を集中させる。
勇之介は───こちらを見ていた。だが様子がおかしい。さきほど呪詛を吐いた時の禍々しさが、なりを潜めている。
そして。
「やめてよ・・・もう、やめてよ! 勇之介ちゃん!」
あたしの胸に抱きかかえられている女童がそう叫んだ途端、勇之介はわずかにひるんで見えた。
あたしの戸惑いをよそに、女童───大家の話だと、確かお夏って名前だったんじゃなかったかしら───はボロボロと涙を流しつつ、それでも怨霊に訴えかけるのをやめなかった。
「どうして勇之介ちゃんが、おとうを殺そうとするの? どうして? 勇之介ちゃんはあんなに優しいのにっ!」
その時。あたしは自分の勘違いに、やっと気づいたのだった。
───そうだ。あたしは日本橋の小津屋焼け跡で《鬼道衆》に再会する前、てっきり御厨さんに油売り・彦一の居場所がここ、神田だと聞かされていたものだと思い込んでいた。
だけどソレは違う。御厨さんが教えてくれたのはあくまでも、おろくたち姉弟が以前住んでいた場所の方だったのだ。勇之介の次の狙いが油売りだと知って混乱してしまい、うっかり混同していたのだけれど。
ついでにあたしは思い出す。このお夏ってコ、さっき小津屋焼け跡で顔を合わせてた、あの女童じゃないの。そう、わざわざ野の花を供えに来ていた、あの時の・・・。
って・・・ちょっと待ちなさいよ!?
ひょっとしてあの時の花って、勇之介を供養するためのものなんじゃ・・・。お夏の口調からも、2人が知り合いだったってことはもはや疑いないことだし。
けど、けど・・・勇之介はこのコの父親でもある油売り・彦一すらも自分の仇だって思い込んでるのよ!? 殺したいって憎んでるのよ!?
それってあんまりにも・・・!
一方、火を消し終わったんだろう。あたしの側に駆け寄って来たらしい御厨さんが、うめくように呟くのが聞こえる。
「榊さん・・・もしかして、油売りが仕事の手を休めてまで勇之介を小津屋に連れて行ってやったのは、何も親切なだけじゃなく、娘の友人として勇之介のことを知っていたからなんじゃないんですか・・・? そうだ、だからこそあの時、又之助に詰め寄ったんじゃ・・・!」
御厨さんらしい、人情的な推理ですこと。
「そんな馬鹿な! だ、だって勇之介は行商だって男のこと、全然知らない風だったんだ! それが友達の父親だなんて、そんなことありえるはずがないじゃないのさ!」
もっとも、桔梗の方は否定したがってるみたいね。・・・まあ確かに彼らの言い分じゃ、勇之介は彦一のことを『行商のおじさん』としか言ってないんだから。
だけど、そういうことって意外と、よくあることよ。自分が知らないだけで、相手の方は自分のことをよく知ってるってことは。人のつながりなんてものが、本人も思いもよらないところで生じてることが、どんなに多いと思って? 子供は自分のことで手一杯で、視野が狭いから気がつかないかもしれないけど、ね。
一方、勇之介の正体を未だ知らないはずの《龍閃組》(蓬莱寺と涼浬の2人だけだけどね)は、と言うと───自分たちが相対しているこの怨霊がお夏と親しい仲で、しかも彼女の父親のことを殺そうとしている、ってところは何とか把握したみたい(ま、ピンと来ない方がおかしいけど)。
それでとりあえず、勇之介を刺激しない程度に静かな足裁きで、油売りの彦一の近くへと移動したみたいだ。いざって時は、彼を守ってやろうって寸法なんだろう。
で、勇之介を『説得』しに来た《鬼道衆》の方は、あろうことか、あたしと御厨さんの側にいる。主にお夏と、そしてどうやら与力であるはずのあたしを守るかのように。
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12月28日(日)
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