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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(13) 外法帖
 つい毒ついたのは彼の<力>を信じていなかった自分を取り繕うためと、あからさまに彼を案じてしまっていた気恥ずかしさからだったんだけど・・・肝心の蓬莱寺の返答と来たらからかいも、理不尽さに対する文句も飛んで来やしない、いつもと違い極めてまっとうなものだった。・・・怒鳴りつけたことをこっちが後悔するくらいに、ね。

「別に俺だけじゃねえぜ。雄慶や藍も来てる。もっとも雄慶は『火』とはあんまり相性良くねえから、入れねえでいるけどよ。藍たちは長屋の連中を宥めてる最中だ。何も知らされねえで待機だけさせられる、なんて、結構神経的に堪えるらしいからな」
「・・・悪かったわね、徒に住人を不安に陥れちゃって【怒】」
「へ? イヤ、別にお前らのやり口を責めてるつもりはねえんだが・・・」


 どこか呑気にも思える会話は、だけどさっきまでは決して起こりえなかったことではある。
 それが許されるのも、鬼火たちが蓬莱寺を遠巻きにして牽制しているからだ。彼の言葉「天敵」を、まさに裏付けるかのように。
 その隙に涼浬は、どこから取り出したのか、あたしの目の前の床にトスッ、と、1本の刀を突き刺した。そして鞘を両手で掲げてみせる。

「榊様・・・どうかこれをお使いくださいませ。どれだけか戦いを有利に運べると存じます」
「これは?」
「銘は『村雨丸』。かの、里見八犬伝にてその名を知らしめた、常に刃に水を湛える刀にございます。この場においては、最良の武器かと」
「むっ、『村雨丸』ですってえ!?」

 里見八犬伝を読む限りじゃ、滴り落ちる水のおかげで切れ味が落ちないって話だけど・・・確かに鬼火たち相手にはもってこいの刀では、あるわよね。
 しかし、てっきり伝説か、作り話の世界の物体だとばかり思っていたけど、実在するものだったとは・・・骨董品店って言うのも、案外侮れないわ。もちろんこの刀がホンモノの『村雨丸』だったとして、の話だけど。

 ゴウッ・・・!


 と、そのうち。
 蓬莱寺とまともに戦っても埒が明かないと見たか、早速1匹の鬼火がおあつらえ向きにあたしめがけて襲い掛かって来た!

「うわわわわわわっ!?」

 情けない悲鳴を上げて攻撃をよけると、あたしは思わず『村雨丸』を引っこ抜いていた。そしてそのままの勢いでほとんどヤケクソになって、鬼火に切りかかる。

 ジャッ!

 ───一刀両断、とはよく言ったもの。今まで苦戦していたのが嘘と言わんばかりにあっさりと、鬼火はその場で切り捨てられた。

「こ・・・怖い刀だわ、これ・・・☆」

 改めて刀を見やりつつ、あたしはゾッとせずにはいられない。

『村雨丸』が聞きしに勝る、涼やかな冷気を持った刀だからってこともある。でもこれはどちらかと言えば、切れ味が良すぎてかえって寒気が来る、ってヤツね。
 正直これは、使いすぎると危険な刀だわ。このまま下手に、たくさんの鬼火を「気持ちよく」斬り続けて御覧なさいな。きっと勘違いして、自分が天下無敵に思えて来るに違いないわ。
 そうしてそのうち、切れ味の良さが忘れられずに夜な夜な獲物を求めて、辻斬り三昧・・・。

 ブルルルッ☆ しゃ、しゃれにならないわよ、火附盗賊改が辻斬りなんてっ。

「・・・役目が終わったら、とっととつき返しましょ(汗)」

 硬く硬く心に戒めて、あたしはとりあえず当面の敵を切り伏せることに専念するのだった。


*******************

 戦況が逆転したのは、それからまもなくのこと。

 この手の相手とは場数を踏んでいるらしい、《鬼道衆》の3人。
 「火」の天敵らしい、蓬莱寺と涼浬の乱入。
 そして、「火」に対しては絶大な切れ味を生む『村雨丸』が冴え渡ったおかげで、この室内を覆い尽くさんばかりにいた鬼火たちは、見る見るうちにその数を減らしていった。
 おかげで、今まで把握できずにいた室内の様子が、一目で分かるようになる。


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08月30日(土)
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