ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■まどろみの彼方 おざなりダンジョン(笑)
「・・・何であんさん、いきなりそないなこと言いに来たんや? いつものあんさんなら、そないなこと言わんへんのに」

 てっきり分かってくれてると思ってたのに、とまるでふて腐れたようなモカに、青年は寂しそうな視線を向けた。

 ───そうだな・・・君と一緒にいた頃の私なら、こんなことは言わなかったのかもしれない。だが・・・今の私は少し不安なのだ。

「何が?」

 ───色々と、だ。スマンな。今の私には、それを告げる事はできぬのだ。

「・・・・・・」

 珍しく、モカは沈黙した。
 かと思うと、おもむろに彼女は、青年の方へと掌を差し伸べるようにする。
 果たして───彼の体に触れる事は出来なかった。すぅっ・・・と、まるで幻のように姿が透けて見える。

 モカの表情に、いらだたしさがうかがえたのはだが、一瞬だけ。

「ま、ええわ。今度ちゃんと会えるんやから」

 あっけらかん、とモカは笑った。
 「会えたら」ではない。「会える」と彼女は言った。まるでそれが夢まぼろしではなく、期待でもなく、約束された未来のように・・・。

 ───・・・ローレシアの私も、君の知る私とは違うかも知れぬぞ?

「そんなん、会って見んと分かるかいな。ウチはあんさんの側へ行く。ウチが決めたんやから、それでええやろ」

 ───君の知る私が、それを望まなくとも、か・・・。フフ、愚問だったな。君はいつもそうだった。結果を恐れず、正しいと思うことを、なすべきことをして来たのだから・・・。

 諦めたような、それでいて嬉しそうな目の青年を、しばらくモカは黙って見ていたのだが、おもむろにボソリ、と言った事がある。

「・・・何や。ひょっとしてあんさん、色々ある言うて、そいでウチと会いとうない、会うんが怖い、思うとったんか?」

 ───・・・・・・!?

「ウチのこと見損なわんといてや。そないなことでウチは傷つかん。それに、あんさんがウチに会いとうない、言うても、ウチは絶対押しかけて行くからな。そいでまた、一緒に冒険するんや!」

 どこか儚げな存在だった青年が、その時だけ目を見開いた。そして、心から嬉しそうに笑った。

 ───そうか・・・。なら止めないぞ。君の思う通り、君の進むべき道を来るといい。そして・・・。


 何時でもいい。いつかきっと、私に会いに来てくれ───そう言った青年の声は囁きにも、反響ともつかぬ響きを持っていて。
 モカの耳には、きちんとは届かなかった・・・。


***********

「なーんか変な夢、見たような気がするなあ・・・」

 旅の途中。起き掛けに朝食と相成ったモカは、ブルマンとキリマン相手にそう呟いていた。

「夢!? モカでも夢なんか見るのか!?」
「・・・何やブルマン、ウチが夢見るのがそんなにおかしいか?」
「イヤ、その、いつも寝に入ったら即座に爆睡してるからさあ・・・」
「△※→×◎」
「キリマン・・・そこで恐々、ウチを拝むんはやめい☆」
「そ、それで、どんな夢を見たのさ?」
「それが・・・全然思い出せんのや。おかしいなあ・・・」

 夢を見た。それは覚えている。なのに、どんな夢を見たのかは、覚えていないと来た。
 それが夢と言うものだ、と言われればその通りなのだが・・・。

 酷く懐かしいような空間に、いたような気もするのに。

「ああ、ええわ。思い出せる時は思い出すやろ」

 そう言って立ち上がろうとした時、モカは無意識に腰の「それ」に手をやろうとして・・・違和感にふと、そちらを見やった。

 そこにあったのは、ずっと持ち慣れて馴染んでしまった「彼」の姿ではない。グレイト・ソウルにたくされた、ロゴスの牙より作られた黒い、剣───。

「・・・モカ・・・」

 心配そうにするブルマンに気付き、モカは気合入れとばかりに、自分の腰をそのままパアン! と叩いた。それからようやく、ロゴスの剣に手をやる。

 きっと何時かは、慣れてしまうだろう。「彼」のいない違和感に。

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05月30日(金)
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