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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■Darling(6)SD・流×彩?
「・・・・・っ!?」
流川はあろうことか、ひどく動揺した。そして思わず後ずさってしまう。
当然、彩子の掌はおでこから外れたわけなのだが・・・。
「あ、ゴメン、イヤだった? でも熱はなかったみたいで、安心したわ」
流川の今の態度を、女性への嫌悪と受け取ったのだろう。苦笑まじりに彩子は、手を元の場所に下ろす。
そのやわらかな手を、流川は半ばボーゼンとして見送っていた。
───あの手の感触がなくなったおでこが、こんなにもスースーするものだとは、思いもよらなくて。
「でも気分が悪くなったら、ちゃんと保健室に行くのよ? 我慢しちゃダメよ流川」
彩子の忠告にも、ただ馬鹿みたいにブンブンと首を振るしか出来なくて。
───この時。
さしもの流川も、自分がどうやら彩子に対して特別の感情を抱いていると言う事実を、自覚せざるを得なくなったのだった。
実のところ、流川が休み時間を利用して2年の教室棟まで来たのは、彩子に会うためだったのである。
昨日、試合帰りのバスの中、流川はいつの間にか彩子の膝枕で寝てしまう、という失態を起こしてしまった。目が覚めた後でチームメートから、完全にやっかみの声を浴びせられたわけだが、別にそんなことで堪える流川ではない。
ただ・・・彩子の膝枕の使い心地はと言えば、家の自分のベッドでの寝心地に勝るとも劣らないものだった。ふんわりとして、あたたかくて、時々いい匂いがして・・・。それを思い出すと、教室の固い机の上などではどうにも眠ることが出来ず、結果寝不足になってしまった。
それで、出来たら膝など貸してもらえないだろうか、と、後先まるで考えずにここまで足を運んでいたのだけれど。
<出来るかああっ! 掌だけでこんなにドキドキすンのに、膝枕してくれなんて、言えるわけねえええっ!>
外見こそいつもの無表情な流川であったが、その中身は相当焦りまくっている。
「? どうしたの、何か顔赤くない?」
おまけに、心配そうに彩子が顔を覗きこんで来ては、表面上はただただ沈黙を守るしかなくて。
そんな流川の葛藤にケリをつけたのは、だが、新たなる葛藤の始まりを告げるものでもあったのだが・・・。
「彩子くん、テストの結果見たよ。すごいじゃないか」
いきなり彩子にかけられた声に、我に返る流川。見れば声の主は流川も知っている、バスケ部の顧問教師だ。
「ええ、まあ、今回は頑張りましたから」
「しかし、バスケ部のマネージャーは休んでなかったじゃないか。私も鼻が高いよ。『バスケばっかりやって、勉強がおざなりになる』なんて言葉、平気で使ってくる先生もいるからねえ。彩子くんを見たまえ、と言ってやりたいよ」
完全に流川の存在は無視されている。イヤ、気付いていないのかもしれない。
<そろそろ教室に戻るか・・・>
一抹の寂しさと、どこかしらの安堵感を覚えつつも、流川はこの場を立ち去ろうとしたのだが。
「どうだね? 神奈川でも1、2を争う進学校を志望校にしたら?」
教師の口から飛び出した言葉に、思わず足を止めていたのである。
・・・突然だが、流川の学校での成績はというと、さんさんたるものだ。いつも授業中居眠りしているのだから、当たり前ではあるが。
だから、進路希望相談係の教師からは、「バスケで行ける高校を目指したら?」とまで言われるくらいで、本人もそのつもりでいた。
バスケ顧問の教師から、爆弾発言が飛び出すまでは!
「そこって、バスケ部あるんスか?」
流川は感情の赴くまま、彩子と教師の話に首を突っ込んでいた。
「る、流川?」
「は? バスケ部? い、いや、確かなかったと思うよ。進学校だからね、どちらかと言えば文科系の部が多いところだし」
教師はとりあえず、そう答えたが。
「・・・・・・・」
目の据わった流川ににらみ付けるようにされては、それ以上の言葉を口に出せずにいる。
そのうち。
キーンコーンカーンコーン・・・。
休み時間終了を告げるチャイムが鳴り響き、とりあえず教師に安堵の息をつかせたのだった。
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04月21日(月)
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