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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(12)外法帖
『奴等』が水を怖がっているのは事実だから、水瓶の中身をぶちまければ確かに、一時的には有効でしょうよ。・・・だけどあくまでも、それは一時的な処置。
───さて、ここで問題です。汲み置き水をそうやって全て使い切ったところで、万が一にも鬼火が一匹? でも生き残ったら、一体どうなるでしょう?
答えは簡単。仲間たちの敵討ちにと、躊躇うこともなくこっちに襲いかかって来るだろう。そしてその時のあたしたちには既に、『奴等』に有効な手だては残っちゃいないから、焼き殺されるのは十中八九決まり切ってる。もちろん焼け死ぬのはあたしたちだけじゃない。『奴等』の最大の標的であるだろう、油売りの彦一もでしょうね。
少しでも生き残る算段をしなきゃいけない時に、焦りは禁物ってことよ、つまりのところは。
加えて、どうしてあたしがそのことを懇切丁寧に御厨さんに説明しなかったかも、この際教えてあげましょうか?
あたしたちの目の前にいる鬼火たちは、本能だけの生き物と思いきや、その実そうじゃない。それは、さっき御厨さんがうかつにも彦一の名前を・・・と言うか、この部屋に彦一と言う名の油売りがいるらしいって可能性を口にした途端、自分たちも彼をおびきよせようとしたことからも、分かるでしょ? それなりに思考能力も備わってるらしいって事なのよね。
だから、この場でうっかり御厨さんの作戦の難点を話しでもしたら、そしてそれを鬼火に聞かれでもしたら、最悪、虎の子の水瓶を叩き割られてしまう、って事態もありうるわけ。
・・・他に有効な手段がない今、それだけは避けたいじゃない。
「さて、と・・・」
鬼火の動向をうかがいつつも、次にあたしは柄杓の水を、着物の上から浴びせかけることにした。
こうすればとりあえず、襲われて即・火だるまってことだけは防げる。それでも頭を濡らすのをやめたのは、何も身だしなみに気を払っただけの理由じゃない。一瞬の隙が命取りの現状だって言うのに、水が目に入ったらそれだけで充分『隙』を作っちゃう。それに視界も狭くなるしね。
ところが敵もさるもの。このままじゃ埒があかないと悟ったのか、一斉にあたしたち目掛けて襲いかかって来たのだ!
ゴウ・・・ッ!
唸りをあげて迫り来る炎に、とっさに刀を振り回すあたし。
ジュッ!
だけど水は蒸気と化し、刀はたちまち乾いてしまう。水瓶に近寄ろうにも、何時の間にかぐるりと周りを鬼火に取り囲まれていては、それも叶わない。死なないためにも、次の手を講じるためにも、ここは何としても鬼火たちを切り伏せないと!
「このっ!」
焦って突き出した刀はあえなく躱されて。完全に無防備になった脇目掛けて、鬼火が今まさに襲いかかろうとしたその瞬間、だった。
『水神之玉!!』
鋭い声と共に、何かがあたしの側へと飛んで来たのは。
青色のその玉が、床に落ちるが早いかまばゆい光を放ったかと思うと・・・。
ジュウウウウウウ!
焼けた石に水をかけたような音が響き渡り、視界は一瞬薄い霧のようなものに覆われる。
本来ならこれは、敵中で見渡しが利かないって意味で、あたしにとっては危険極まりない状況のはず。だけどその時のあたしは、鬼火たちもこの機に乗じて襲いかかってくるような度胸はないだろう───そう察した。
何故なら、この霧からは水の感触を感じたから。
「榊殿! 御厨殿! 無事か!?」
続いてかけられた聞き覚えのある声と、どやどやと何者かが駆け込んで来た気配に、あたしは思わず「げっ☆」と、お下品な声が出てしまう。
『妖化生・九尾猟!!』
『四霊・麒麟!!』
ドカッ! バキッ!!
見れば、戸口近くで鬼火相手に素手やら、怪しげな術やらで、見事なまでに渡り合っている少年と女人。───こともあろうに、《鬼道衆》の風祭と桔梗だ。やっぱりと言うか、あたしたちを追いかけてここまで来たらしい。
「何であんたたちが来てるのよ!?」
そして同じく追いかけて来たらしい、九桐が槍を手に現われるに至って、さすがに温厚で物分かりの良いあたしもブチ切れた。
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03月20日(木)
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