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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(9)後編 外法帖
無理矢理怒りを噛み潰し、あたしは御厨さんに視線で合図を送った。
頷いた御厨さんは、心得たように桔梗への質問を続行する。あたしの代わりに。
今下手に口を開いたら、あたしが桔梗を罵倒し続けるのは疑いない。それも、半ば八つ当たりの形で。
・・・悔しいけど、さっき風祭が指摘したことは確かに当たってるのよ。あたしたち火附盗賊改がしっかりしてなかったから、おろくの火付けに隠されたもう1つの陰謀に気づかなかった、って辺りはね。
笹屋・久兵衛と岸井屋・又之助が火事の後挙動不審だったのは、分かっていたはずなのだ。でもおろくが自分の罪を名乗り出たため、彼らへの尋問はそれ以上行われなかった。ここで面倒がらずに追及の手をゆるめずにいれば、あるいは勇之介の凶行を防げたかもしれないのに・・・。
それを自覚していたから、あたしは自分で桔梗に相対するのはやめにしたのである。今は時間が惜しい。とにかく冷静に事に当たらないと。
「・・・それで? これ以上の被害者を出さないために勇之介を説得しに来た、と言ったな。勇之介が狙う人間に心当たりがあると言うわけか? 一体誰なのだ?」
「それが・・・名前は全然聞いていないんだよ。勇之介自身、相手が誰か知らなかったみたいだし」
「ったく、狙われてる人間が誰なのか知ってるなら、俺たちがわざわざここへ来るはずねえだろ? 勇之介の終焉の場所ぐらいしか、他にあいつが行く場所なんて見当がつかねえんだよ」
「一言多いぞ、風祭。喧嘩腰になるな。・・・八丁堀、さっき榊殿は勇之介の手にかかって男が2人死んだ、と言っていたな。本当なのか? それは」
一同の中では一番冷静な九桐が、風祭たちの押し問答を見かねて口を挟んで来る。
話していいものか判断に迷い、視線を送って来た御厨さんの要望にあたしは答えてあげることにした。
少しだけど、冷静な心が戻りつつある。
「・・・半分本当で、半分は嘘ですよ。1人は確かに、あたしの目の前で燃え上がって絶命いたしましたけれど、もう1人は未だに生きています。もっとも、半ば廃人と化していますがね」
「焼き死んだのを、目の前で目撃したと言うわけか・・・なるほど、わざわざ火附盗賊改の貴殿らが出張ってくるわけだ」
「感心していないで、話を元に戻しましょうか。あんたたちは死せる勇之介と話をしたわけでしょう? 彼が狙う人間の特徴とか何か、聞いていないの?」
勇之介が、自分を害した人間の名前を知らないとなれば。
じかに勇之介から話を聞いたらしい桔梗の証言だけが、あたしたちにとっては頼りの綱だわ。
皆の注目の中、桔梗は懸命に自分の記憶を呼び起こそうとする。
「誰が実際に呪殺されたのかは知らないけど・・・確か勇之介を殴ったのは、巾着袋を凶器代りに使った気の弱そうな男で。勇之介は裏口に捨て置こうとしたもう1人の男に必死に抵抗して、顎の辺りを爪で思い切り引っかいた、って言ってたっけ」
「・・・榊さん・・・」
「あたしの推理力の正確さに、目眩がしますよ全く☆」
間違いない。気の弱そうな男って言うのが、廃人と化した笹屋・久兵衛。そして顎の辺りに引っ掻き傷を作っていたって言うのが、こんがりおこげをあたしの目の前でご披露してくれた、岸井屋・又之助だわ。
「その2人ならとっくに襲撃された後ですよ。けど・・・今のあんたたちの言い草じゃ、ここに第三者が挟まる余地はないように思えるんだけど。一体どんな人間なわけ?」
あたしの質問に、桔梗は苦り切った表情を見せる。
「それが・・・どうやら行商人らしいって言うんだよ。それも勇之介が小津屋へ急いでいた時、道を尋ねたって話で・・・」
「・・・行商人?」
何かが、あたしの頭の中に引っ掛かる。
「たったそれだけのことで、どうして勇之介が怨むと言うのだ?」
御厨さんも疑問に思ったらしい。鋭く突っ込んで来る。
「あたしもそう思ったんだけど、さっき言った男2人はその行商人から、勇之介の身柄を預かったって話なんだ」
「預かる?」
ああ、また何かが・・・。
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07月22日(月)
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