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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(9)前編 外法帖
「ええ。実はねえ、御厨さんは頭でっかちで正義感が強いから、この件を《龍閃組》に任せようって考えてるらしくって。知ってるでしょ? あんたたちも《龍閃組》のことはさ。・・・けどあたしは反対なの。呪い殺された2人は言わば自業自得だったんだし、今更怨霊退治ったってあたしの出世にはなーんの役にも立たない。
・・・だったらどうせだから、勇之介の怨霊をアタシに貸してくれないかしら? って思って。あたしの出世に邪魔なお偉方とか、呪い殺すのに使えたら最高v じゃない?」
「・・・・・・・・榊さん!? いきなり何をおっしゃるんですかっ!?」
「幸いって言うか、このことに勘付いてるのはあたしと御厨さんだけなんですよ。だから後は、御厨さんの口を封じてしまえば万事うまく行くと言うわけ。・・・どうです? 悪い取り引きではないと思いますけどね」
「榊さんっ!!」

 あたしのあまりの言い草に、御厨さんは思い切り声を荒げた。
 と言っても、あたしのけしからん企みを本気で危ぶんでいる、って感じじゃない。どちらかと言えば、あたしがいきなり自分の想像を超えたことを言い出したものだから、頭がついていけないって顔になってる。
 もっとも《鬼道衆》はそんな細かいことなんて気づいちゃいない。単にあたしと御厨さんが仲間割れしたんだと、ウマい具合に誤解してくれたみたいだ。

「てめえ・・・! 仮にも火附盗賊改が俺たちと裏取り引きしようって言うのかよ、しかも仲間まで売って!? 心底腐ってやがるぜ、幕府はよ!」
 怒髪天をついたって形相で拳を握り締めたのは、やはりと言うか、単純極まりない風祭。
「ああ、確かに悪くない取り引きだよなあ。けど、殺して口封じするのは何も八丁堀の方じゃなくてもいいんじゃねえのかっ!」
 言うが早いか、拳を振り上げる。あたし目掛けて。
 ・・・って、いきなりこっちへ来るかあ!? てっきりこれ幸いとばかりに、御厨さんの方に襲い掛かると思ってたのにっ!
 あたしは半分腰を抜かしながら、それでも早口でこう叫んでやった。

「い、いわれのない嫌疑とか言いながら、やっぱり後ろ暗いところがあったのね、あんたたちにはっ!!」

 風祭はハッ、と拳を止める。
 そしてほぼ同時に聞こえたのは、キィン・・・! と言う、刀のぶつかり合う音。
 おそるおそる見たあたしの頭上で、風祭の攻撃を阻むかのように2本の刃物が、交差しているのが見えた。
 1本は、もちろんあたしを庇ってくれた御厨さんの刀で。
 もう1本は───どうやら僧侶の得物らしい、槍である。


「く、九桐・・・」
「お前は血の気が多すぎるぞ、風祭。今のが榊とか言う者の策略だと言うことに、どうして早く気づかんのだ」
 苦り切った顔でその九桐、と呼ばれた僧侶は風祭をたしなめる。
「おまけに今ので、すっかり八丁堀に敵意を抱かせてしまったらしいし、な。この忙しいのに問題を増やしてどうする・・・」
 ───九桐の言う通り。
 御厨さんの今の形相と来たら、さっき背中にあたしを庇ってた時のとは比べ物にならないくらい、怖いものになっちゃってる。彼のこういう表情見るのって、卑劣で凶悪な盗賊と斬り合いになった時、以来だわ。
 あーあ、こうなると経験上、ちょっとやそっとじゃ怒りが収まらないわよ。

「・・・刀を、納めてくれないか八丁堀」
 槍を渾身の力で弾き、再びあたしを背中に庇う格好になった御厨さんに、九桐は話し掛ける。困ったような顔をして。
「貴殿の上司に───榊殿と言ったか、害を加えようとした無礼は詫びる。だがそれは風祭の貴殿への好意の表われだと、解釈してはくれないか? まさかこちらを引っかけるための芝居だとは、風祭は思いもよらなかったのだ」
「・・・榊さんはこれでも、正義感の熱い御方なのだ。上からの圧力にも屈せず、火附盗賊改与力としてのお役を貫こうとしたほどのな。そんな榊さんが、汚い裏取り引きなどするものか! 見くびるな!」
 御厨さんてば、あたしの命の危機ももちろんのこと、あたしが変に誤解されたからって激怒してるみたいだわ。

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07月21日(日)
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