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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(7)−1 外法帖
でもあたしはじきに、自分のやるべき事を見出すことが出来た。確かに武術では皆に劣っていたけど、頭脳なら誰にも引けを取りはしないもの。何度も事件現場に足を運んで、なるべく経験を積むように心がけた。
そのうち、決定的な物的証拠を見つけることができるようになったり、効率がいい聞き取り方法って言うのが分かるようになったから、それらを部下に命じて成果を上げたり───後は、部下同士のいざこざを収めることとか、上司へのとりなしとか、まあそう言った細細としたことを、何時の間にか引き受けるようになっていたわね。
だから、ある程度職務に慣れてきてからは、こんな夢も見なくなっていたんだけど・・・。
次に、再びこの夢を見るようになったきっかけは、とある盗賊をやむを得ず、この手で斬り捨てる羽目になった時だったわ。
盗賊って言ってもその男は、一見そうは見えない優男。・・・まあそれも無理はない話で、彼の仕事は盗みに押入ったり鍵穴をこじ開けたりするものじゃない。いわゆる『牝誑(めたらし)』ってヤツ。ここぞと思った店関連の女───たまぁに男相手のこともあったらしいけど───を篭絡し、引き込みなり店の情報の入手なりを手伝わせるの。挙げ句には押入った仲間に、誑し込んだ相手を口封じにと殺させてしまう、そんな物騒な男だった。
だけど悪いことは出来ないものね。結局彼の色男ぶりから逆に足がつき、お縄にする日が来たってわけなんだけど、捕物の時にはそりゃあもう、とんでもない大乱闘になっちゃったのよ。
その時、よほど彼は捕まりたくなかったらしくって、自分がこんな身分になったのは冷たい世の中のせいだだの、自分は進んで盗賊にも『牝誑』にもなったわけじゃないだのと、暴れながらわめいてた。世の中のもの全て、呪って憎んでるのを露骨にも吐き捨てて。
運の悪いことに、その時近所の親子がその男に捕まっちゃって。その頃にはもう狂気染みた笑みさえ浮かべてたそいつは、
「オレがこうなったのは、全ては親を盗賊に殺されてみなしごになったせいだ。おまえらもそうしてやる!」
そう言って、親の方を斬り殺そうとしたから・・・一番近い位置にいたあたしが、とっさに刀を抜いたってわけ。さすがに一刀両断ってわけにはいかなくて、そいつは地面に倒れ付してからも生きていた。
そうしてその男は、引き立てていかれるまでの間、ずうっと世間を呪う言葉を垂れ流し続けたの。
「オレを不幸にしたのは世間のせいだ、親を殺した盗賊も、その盗賊を事前に捕らえることの出来なかったお前ら(火附盗賊改)も、全員同罪だ、殺してやる、殺してやる、殺してやる・・・」
そう、何度も何度も。
まるで、自分以外のものを憎むことでしか、生きる術を持たないかのように。
その『牝誑』が、あたしが斬った傷が原因で死んだのは、それから数日後のことだった・・・。
───断っておくけど、あたしは別にその盗賊を斬り捨てたことを後悔してるわけじゃないのよ。あたしがそうしなかったら、また1人不幸な孤児が増えるだけなんだし。
ただ・・・例の妙な夢をまたしばらく見る羽目になったのは、多分身につまされたせいなんでしょうね。自分の不遇を、世間を憎むことでしか晴らすことが出来なかったって男に対して。
もしあたしが、与力としての自分の居場所や意義を見つけることが出来ずにいたら、一体どうなっていたかしら。やっぱりあの男のように世間を怨み、自分の職権を乱用した挙げ句に、悪事にでも手を染めていたかも知れないわ。
まあ、あくまでも仮定の話だから、言うだけ馬鹿馬鹿しいけど。
そして今回、またこの夢を見た、ってことは・・・。
無意識のうちに焦っているんだろうなあ。事件の捜査が、まるで進展しないことに対して。
おまけに《龍閃組》なんていう、与助の言う『専門家』までしゃしゃり出てきたから、尚更なんでしょうね。
あたしに《龍閃組》の連中みたいな、不思議な妖力でも使うことができれば、こんな事件ぐらいたちどころに解決できるだろうに、って・・・。
───あたしは布団の中でもう1度、手の平をこちらへ向けて眺めてみた。
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04月26日(金)
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