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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(6)・後編 外法帖
 久兵衛同様、夜脅えていたってことか。まあ・・・呪いとか鬼とか物の怪とかが出てくるとすれば、日中よりは夜だからねえ。夢を見るのも夜だし。
 だけどだからって、どうして又之助が遊女を『おろく』呼ばわりしていたかが理解できないわ。まさか彼女に横恋慕していたわけでもあるまいに。

「旦那、榊の旦那、話はまだ終りじゃありませんって」
 ついつい自分の考えに没頭していたあたしは、与助に袖を引っ張られてやっと我に返った。
 慌てて続きを促す。
「・・・聞かせてもらいましょうか」
「へい。で、今度は火事で焼け出された連中のことを調べようと思って、日本橋へ行ったんですがね。そこで妙な話を聞いたんですよ。又之助が言い争いをしてたのを見かけた、って」
 日本橋って、確か火元の小津屋があったところよね。与助も随分頑張って調べてること。
「言い争い? 誰とだ?」
「その辺では結構『顔』の、油売りの行商人だそうで。何だか険悪な雰囲気だった、って言ってましたよ」

 油売りの行商? あれ、どこかで聞いたような・・・。
「どんな油売りだ? 何か特徴でもないのか?」
 あたしの心中を読み取ったような御厨さんの言葉に、与助はあっさりと答えた。
「赤いお守り袋を首から下げてる奴、とか言ってたなあ。とにかくそいつが、死んだ又之助につかみ掛かってたらしいっすよ。『一体どういう事なんだ』とか『そんなつもりであんたに預けたんじゃなかったのに』とか、怒りまくっていたって話でさあ」

 ・・・ちょっと待ちなさいよ。赤いお守り袋を持った油売りって・・・!

「榊さん、よもやその行商人って、自分が火付けじゃないことを証明してくれると岸井屋が言っていた、あの・・・?」
 御厨さんの問いかけに、あたしは黙って頷くしかなかった。
 ───何だか変な話になってきたわね。まさかその油売りとやらが、何かがきっかけで又之助を怨んでて、挙げ句の果てに呪いか何かで殺した、とか言う安直なオチだったら、怒るわよあたし。
 でも、確かにその言い争いの原因は気になるし・・・。
「それで、その口論を見掛けたのはいつなの?」
「確か・・・おろくの火事の後だって話ですぜ。そいつは火事後の瓦礫を片づけてた時に、2人を見掛けたって言うんですから」
 きわめて信憑性の高い時間証言ね、それは。少なくとも日本橋じゃここしばらく、小津屋前後には火災は起きていないはずだから。

 しかしこうなったら、実際にその油売りから話を聞いた方がいいのかしら。寝込んでるって話だったから、あまり無理強いはしたくないんだけど。
 それに、やらなきゃいけないことも山ほどあるし。おろくと又之助が過去に何らかの関係があったかどうかとか、他にも・・・。
 積み重なる命題の多さに疲れてたんでしょうね。あたしは知らず知らず眉間を指で揉み解していることに、御厨さんに声をかけられるまで気づかずにいた。

「・・・榊さん、お休みになられてはいかがですか?」
「何を言ってるんですか。まだ眠るには早い時刻ですよ」
「それはそうですが、随分お疲れのご様子ですし」
「あたしを年寄り扱いしないで下さる? 疲れてなんていませんよ」
 とっさに眉間から指を離したあたしに、御厨さんは咳払いをしてからぼそり、と言う。
「榊さんご自慢の・・・その、美貌が台無しになるんじゃありませんか。寝不足は美容の大敵だって、常日頃おっしゃっておられたでしょう」
「ゔっ☆」
 い、痛いところ突くわね。
「それに、上役が休んで下さらないと、下に仕えている者も気兼ねして休めませんし。・・・与助、お前もう疲労困ぱいだろう?」
「へ? いやおいらは、まだそんなには・・・」
「疲労困ぱいだな?」
「・・・・・・へ、へい、じ、実はそうなんでして。いい加減家に帰っておねんねしたいかと、へいっ」

 こらこら、そこで子分に凄んでどうするのよ。
 でも・・・御厨さんにここまで心配かけるってことは、あたしの顔色が相当悪いって証拠なんでしょうね。身に覚えがあるだけに、反論する気力もないわ。
 しょうがない。ここはお言葉に甘えさせてもらいましょ。

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04月14日(日)
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