ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様 快刀乱麻!(3)−2 外法帖
 でも、まあ確かに与助の指摘通り、あたしが焼け死んでお顔に惨い火傷でも残ったりしたら、うらめしや〜〜って化けて出るかもしれないけど。・・・って、何言わせるのよ☆

「とにかく、色々と再調査してみないと分からないわね」
 あたしは帳面を閉じて、気分を引き締めることにする。
「とりあえず与助、あなたはおろくの火事で火傷を負った連中に聞き込みを開始して頂戴。あなたの説がもし当たってたら、案外生き霊って事も有り得るし。祟るにしたって、体が弱ってる人間の方が楽に呪い殺せるだろうし」
 あたしがそう指示を出すと、与助ってば情けない声を上げた。
「あっし1人で、っすかあ?」
「御厨さんはこれからあたしと、木綿問屋の笹屋のところへ行かなきゃいけないの」
「・・・・・」
 ちなみにこの笹屋って言うのは、岸井屋と一緒に役宅へ呼ばれた人間よ。小津屋から火が出た直前に、「所用」で訪れていたってことでね。
「も、もし生き霊だったらどうするんすか〜。あっし1人じゃ太刀打ちできないっすよお」
「あなたねえ・・・仮にも御厨さんの子分を名乗ってるんなら、もっと男を見せなさいな」
「そうは言っても・・・」
 よほど心細かったのね。いつまでもボヤいてた与助だったけど、ふと気がついたように顔を上げた。
「そうだ! どうせだから龍泉寺の連中にも手伝ってもらう、ってのはどうっす?」

 いきなり思いもよらぬ名前を出されて、あたしも御厨さんも眉をひそめずにはいられない。
「・・・与助・・・」
「だって聞くところによると《龍閃組》って、鬼とか怨霊とかと戦って、勝って来たって連中でしょ? やっぱり餅は餅屋って言うか、専門家の手を借りた方が良いんじゃねえかと思って」
 そうしやしょう、と、今にも駆け出しそうな与助を、だけど御厨さんは制した。
「そんなわけにはいかんだろう。彼らは言わば、公儀隠密だ。今回の事件は正直言って、畑違いになると思うがな」
「けど、今までだって・・・」
「今の彼らは黒蠅翁などと言う、得体の知れない人間の行方を追っている最中ではないのか? ただでさえ忙しいのに、手を煩わせるわけにはいかぬと思うが」
「忙しいって・・・何か最近は暇そうっすけど」
 ───確かに、最近の彼らは街中を巡回してるだけで、大きな事件に巻き込まれてる気配はないわね。でも・・・。
「いざって時には、それこそ寸暇を惜しんで戦う羽目になるんですよ、彼らは。今は骨休めの時期だと思った方がいいと思うけど」
 それに、と、あたしは何とか食い下がろうとする与助にピシリと言ってやる。

「与助、あなたには火附盗賊改としての誇りはないの?」
「・・・!」
「あたしたちには、この江戸の町を火付と盗賊から守らなきゃいけない義務があるんですよ。なのにその義務を放ったらかしにして、公儀隠密に頼っていては話にならないじゃないですか。・・・せめて火附盗賊改が正式に廃止されるその日まで、果たすべき義務ぐらいは果たしておかないとね。岡っ引きが天職だ、って言うんなら、行動で証明してみなさいな」
「・・・へい」
 さすがに自分の言い草が、怠慢のなれの果てと気がついてくれたみたいね。与助は神妙な顔をして、渋々だけど頷いたわ。

「じゃ、さっそく行って来やす」
 気合いを入れ直して1人で出かける与助を、あたしは見送ろうとしたんだけど。
「・・・あ、ちょっとお待ちなさいな。もう1つ、調べてきて欲しい事があるんだったわ」
 ふと思い出した事があり、慌てて引き止める。
「何を調べるんすか?」
「死んだ岸井屋の主なんだけどね、どうもこのところ女房に内緒で、岡場所に入り浸りだったらしいわ」
 あの律義者の番頭が、奥方の耳の届かないところでそっと教えてくれたのよ。
「馴染みの遊女が、何か知っているかもしれないじゃない。それとなく聞き出して頂戴な。・・・あんまり、長居はしないようにね」
「へいっ!」
 出かけるところに岡場所が加わった、ってことで、与助ってば妙に張り切っちゃってるわね。ホントに単純だこと。

「じゃ、あたしたちも早速出かけるといたしますか、御厨さん」

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03月16日(土)
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