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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■茂保衛門様・快刀乱麻!(1)外法帖
あたしは口元を隠しながら御厨さんに囁いた。何せ盗賊の中には、声を聞かずとも唇の動きを見るだけで、話の内容を知りうる術を持つ連中がいるって話だから。
「・・・どうも裏の世界に漏れてるらしいのよ。あたしたちがもうじき解体される、って話が」
「・・・・・・・・まさか」
この場合の「あたしたち」って言うのは、火附盗賊改のことよ。
「信憑性は高いと思うわ。この話が上の方でほぼ決定した直後に、盗賊たちがこぞって暗躍し始めちゃったみたいでね。泣く子も黙る火附盗賊改が無くなるのを幸いに、荒稼ぎしちゃおうって魂胆なんでしょうけど」
「・・・・・・」
「これがホントの、火事場泥棒ってヤツよっ! 盗人猛々しいったらありゃしないっ!」
・・・一瞬の間が開いた後。
「よっ、さすが榊の旦那、ウマいっすねえ♪」
「あらありがと、与助。だけどあんた、今までどこに隠れてたわけ?」
「いやあ、あっしは腕っ節はからっきりでさあ」
大捕物の時にはいなかったくせに、今いつの間にからあたしたちの側に来ていた与助が、うまく調子を合わせてくれる。
で、御厨さんと言えば・・・あらあら、あたしがした言葉遊びの意味がやっと分かったみたいだけど、どう反応を返していいか戸惑ってるって顔ね。
全く・・・。だからおカタイって言うのよ。子分の与助みたいにこのくらい、さらりと返せなくってどうするのかしら。
こーんな堅物が、事もあろうに吉原でも人気の遊女・お凛に惚れてるって言うんだから、お天道様も皮肉な巡り合わせをしてくれたものよね。言っておくけど、ああいう女をオトすには少しは洒落っ気が分からないとダメだと思うわ。・・・本人には言わないけど。気の毒すぎるから。
「ま、それはともかく、あたしたちもそろそろ引き上げましょ、御厨さん」
これ以上苛めてもしょうがないから、あたしはそう言って真面目一辺倒の部下を開放してあげることにした。
───そうなのよ。
街のみんなにはまだ知らせてないけど、あたしたちの所属していた火附盗賊改は近々、解体されるって決まってるの。
正気を疑っちゃわない? はっきり言っちゃえばさ。血気にはやった志士だの、盗賊だのが跋扈して物騒極まりないこの時期に、何でそんな無理難題を言って来るのかしら。
・・・でも、文句を言ってやりたいのはヤマヤマだけどね。上の方でとっくに決定してしまった事だから、あたしたち下っ端がいくら文句言ったところで、覆るものじゃないのも事実。だから正式に解体されちゃう前に、江戸の盗賊たちを一掃させておくのが、あたしたちのせめてもの最後のお仕事だって、割り切るしかないわ。
ただ、あたしたち火附盗賊改に所属していたお役人みんなが、失業するってわけじゃあない、って事は断っておくわね。現に御厨さんは、別の町奉行に転属が本決まりだし。まあ彼のことだから、新しい職場でも江戸の街のみんなの平和を守るため、さぞや頑張ることでしょうよ。
・・・え? あたしの新しい職場はどこになるのか、って?
さあてね。でも多分、今までの馴れ合いをなくすとか何とか難癖つけて、御厨さんとは別の町奉行勤めになると見たわ。下々の者が変に徒党を組むってことに、上の人たちは神経尖らせるでしょうから。
あーあ、御厨さんって久しぶりに、骨はあるわ真面目だわ腕は立つわで、あたしが今までで会った部下の中じゃ最高の部類だったのにねえ。ま、この際だから最後の我が侭とばかりに彼のこと、仕事でこき使っちゃおうかしら(笑)。
*****************
───そんなあわただしい、ある日のことだったわ。あたしは珍しく時間が空いたのを見計らって1人で、いつもの場所へ足を運んでる最中だった。
いつもの場所、って別に茶屋とかじゃないの。長命寺よ。あそこの井戸の水は色々と有名でね、あたしはこの玉の肌の艶やかさを保つために、時々お水を戴いてるってわけ。このところ激務が続いてるし、久しぶりに気分転換も兼ねようと思って。
その目的地までもう少しのところまで来たあたしは、何やら町人の醸し出す空気がざわめいていることに気づいたの。
「?」
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03月04日(月)
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