ID:38841
ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■過ぎし夢 来たる朝(3)外法帖・天戒×女主?
 彼女の、盃を持つ手が震えているのを見て取り、天戒はそっと自分の手を添え、畳の上に盃を置かせた。
 そして自然、見詰め合う格好となった眼差しのまま、彼女に告げる。

「よく、打ち明けてくれたな、龍斗」
「え・・・・?」
「お前は心底、俺たちを心配してくれているのだな・・・仲間として」
 ひどく誇らしげな気分と共に、天戒は笑い返した。

「天戒殿・・・」
「不吉な夢を告げたと言うのに、どうして・・・と言う顔だな。だがこうは考えられないか? お前は、俺に鬼道衆の危機を教えるためにそんな夢を見たのだ、と」
「え・・・?」
「夢と言うものは、その者の心の迷いや、焦りをも具現化すると言う。お前はきっと、俺たちのこれからの戦いに危ういものを感じているのではないか? 嵐王辺りが聞けば、きっと甘いだの弱気なことを言うなだのと、言うだろうが・・・」
「・・・・・」
「龍斗、俺はお前には感謝しているのだぞ?」

 酒の勢いが言わせたのだろう。天戒は、いつもの鬼哭村の長としてならまず口にしない言葉を、唇に上らせた。
「他人には言いにくいことも、控えめながら進言してくれる。俺を特別扱いになどせず、1人の人間として接してくれる。だから・・・お前の言葉に、俺はどんなにか救われたか分からない・・・」
「・・・天戒殿」
「だから今回もそうなのではないかと、俺は思うのだ。お前の夢は、俺たちに告げてくれているのだと。───自分の力に奢り高ぶってばかりいれば、きっと待っているのは破滅だけだ、と言うことをな」
「・・・・・」
「悪夢は確かに不快だろう。だが、来たる未来に本物の悪夢が来ないよう、何かが俺たちに警告をしてくれているのだ───そう思えば、そんなに悪いものでもあるまい?
だが・・・お前には悪いことをした。1人だけ、そのような苦しみを味わっていようとは。龍斗、すまなかったな・・・」

 ───静かに天戒が言うのを聞くうち。
 龍斗の視線がだんだんうつろになっていくのが、傍目からも分かる。
 天戒に諭されるうちに不安が癒され、今までの睡眠不足もあいまって、一気に気が緩んだのだろう。

 コトッ・・・。

 畳に置かれていた盃だけは、危うく押しのけはしたものの。
 龍斗はまるで気を失うがごとく、睡魔のためにその場に倒れ伏した。


<・・・ここまで正体を無くすぐらいに、眠り込むとは・・・>
 傍らに敷かれた自分の布団へと寝かせてやりながら、複雑な心境で溜め息を漏らす天戒。
 いつもの、特に戦闘中の隙のない彼女を見慣れているだけに、今の無防備ぶりが信じられない。それだけ、連日の悪夢と寝不足がたたった、ということなのだろうが───。

<もっとも・・・龍斗、お前の見た夢と言うのには、別の意味に解釈できないことはないのだが・・・>
 手酌で酒を注ぎ、天戒は苦いものを1人飲み干す。
<お前が近い将来、俺たち鬼道衆とは違う者たちと仲間になる、と言う、な・・・。お前は優しいし、その思いやりを貫き通す強さもある。だから、俺たち以外の人間から好かれても、決しておかしくはないだろう・・・>
 だがその場合、龍斗の仲間たちを斬って捨てるのはあるいは、自分たち鬼道衆と言うことになりかねない。天戒が自説を決して彼女に打ち明けなかったのは、そのためである。
 ───そうでなくても、鬼哭村にいながら幕府への怨みを特に抱いていない、と言う龍斗は、どこかしら他の仲間に気兼ねをしている。だから鬼道衆以外の仲間が出来る、などと口にすれば、今まで以上に気に病むに違いないではないか。

 そこまで考えはしたが、天戒は軽く頭を振って悪い気分を振り払った。
 夢は所詮夢だ、現実とは違う。そんなに深刻に考えていては、こちらの身が持たない。
 どうせ考えるなら、前向きに捕らえようではないか。そう、さっき自分で言ったように「俺に鬼道衆の危機を教えるためにそんな夢を見た」と言う風に・・・。

<とにかく今は、じっくりと休め龍斗。苦しむお前は桔梗同様、俺も見たくはないのだ・・・>

 安らかな寝息が、朝近い室内に聞こえる・・・・・。


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02月28日(木)
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