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ちゃんちゃん☆のショート創作
by ちゃんちゃん☆
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■過ぎし夢 来たる朝(2)外法帖・天戒×女主?
「子供の頃、ですか?」
なみなみと注がれた盃の酒を舐めながら、龍斗が尋ねた。
「ああ。よく尚雲と夜中に、腹が空いたと台所で食い物を探してな。誰にも分からないようにしたつもりだったのだが、所詮子供のすることだ。すぐに露見して、2人して嵐王に・・・先代の嵐王に、叱られたものだ」
気楽な子供時代を思い出し、切なさと共に懐かしさをよぎらせる。
「・・・龍斗、お前はどうなのだ? 子供の頃ならではのたわいない思い出など、ないのか?」
「さあ・・・どうでしょう」
「ふっ、ごまかしたな。俺にばかり話させるとは、ずるいと思わぬか?」
酒が進むにつれ、滑らかになって行く言葉。
ひとしきり無難な世間話などした後で、頃合いを見計らって天戒は静かに切り出した。
「・・・さっきの夢の話なのだがな・・・」
「・・・・・!?」
ほろ酔い気分で穏やかになっていた龍斗の雰囲気が、一瞬にして張り詰めたが、気づかぬフリをする。
「桔梗に聞いた。何やら物騒な夢に魘されているらしい、と」
「・・・桔梗には、迷惑をかけて済まないと感じているのですが・・・」
「責めているのではない。ただ、俺も何かの力になれないものか、と思ったのだ」
「・・・・・」
俯く龍斗の様子を眺めながら、また1杯と盃を傾ける天戒。
「・・・お前はさっき、『所詮は夢の話ですから、どうしようもない』と言っていたが、俺はそうでもないと考えている。夢はそれこそ所詮、人の心が見せるものではないのか?」
「・・・?」
「よく、無意識のうちの心配事があったりすると、その事柄を夢に見るようなことがあるだろう。それと同じだ。・・・お前がそのような夢を見るようになったのにも、それ相応の理由があるのかも知れぬ」
「理由・・・」
「ひょっとしたらその理由とやらが、俺がお前をこの鬼哭村へ連れて来てしまったこと、自体にあったとしても・・・大しておかしくはないな」
時々、天戒は想像してしまうのだ。鬼道衆の戦力になれば、と龍斗をこの村へ連れて来てしまったが、それは彼女にとっては良かったことなのだろうか、と。
穏やかで静かな性格の彼女を、徳川幕府転覆などと言う大それた野望に巻き込んでしまったのは、自分の我が侭ではないのか、と・・・。
「・・・それは違うと思いますけどね・・・」
天戒の危惧を、緩やかな口調で龍斗は否定する。控えめに笑みながら。
「オレが天戒殿について来たのは、オレ自身の意志からですよ。戦っているのもね。そのこと自身には、後悔もしてません。・・・こういう言い方は酷いかもしれないけれど、オレがここにこうしていることに天戒殿が変に責任を感じるのは、オレという人間への侮辱かも、知れませんよ?」
いつもの龍斗なら、まず口にしない種類の言葉。酒が彼女を饒舌にしているのだろう。
だが今の天戒にとって、この言葉は何よりの賛辞だったし、救いにもなり得た。
龍斗は盃の酒を呷ると、ぽつぽつと言葉を繋げる。
「・・・第一、オレがこの村へ来た当初は、そんなに酷い夢は見なかったんです。あの夢を見るようになったのは、ここ最近のことで・・・」
「あの夢、ということは・・・まさかいつも、同じ内容の夢なのか?」
「・・・ええ」
「なら尚更、何か理由があるとしか思えぬがな。どんな夢を見ると言うのだ?」
「・・・・・」
「人に話せないほどに惨(むご)い夢、なのか・・・? それなら無理にとは言わぬが」
天戒の気遣いに、龍斗はかぶりを振って答える。
「惨い夢では、ありますけどね・・・それ以上に、自分の無力さを目の当たりにさせられているようで・・・目が覚める度何も出来ない自分が、苦しくてやりきれなくなるんです」
「やりきれない?」
桔梗の話では、龍斗を悩まし続ける夢と言うのは、彼女が殺されそうになる内容だと聞いているのだが。
怪訝に思う天戒の前で、前髪をかき上げ辛そうに目を伏せて、龍斗は打ち明けた。
「人が・・・殺されるんです。オレの目の前で、何人も。なすすべもなく・・・」
《続》
多分、次で終わります。
02月24日(日)
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