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武ニュースDiary
by あさかぜ
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■雑誌記事(智族GQ7月号A)
続きです。


進化の必要性

金城武が大好きな映画は、決まって人物の性格がはっきりした作品である。
「登場人物がもしあまりよくなかったら、物語は平板になってしまう」
彼はコーエン兄弟の「ビッグ・リボウスキ」がお気に入りで、
「あの悪漢たちは本当に味がある」と思っている。
だから、脚本を選ぶときは、いつも、「やってみたことのない人物」というのも基準の1つで、
ピーター・チャンはそれを餌に誘いをかけ、彼が断われなくしてしまうのである。

実に長いこと、彼がやる役にはどれも理想化された色彩があった時期がある。
多くは、こうと思ったら思いつめる人間で、絶えず変わり続ける世界に対して自分の速度を変えず、
あたかも、時間のカプセルの中で生きているかのようだ。
「投名状」から、単純さの中に、意味の深い、無力さと残忍さが表現されるようになり始め、
「武侠」の徐百九になると、頑固で憎たらしくさえある。
「監督に、本当にこんなにいやな感じにするのかと聞いたら、
そう、そんなふうにいやな感じにしたいんだというのが返事でした」

他の多くの人と比べて、金城武の人生は決してそれほど起伏に富んでいるわけではない。
彼自身、多くの役をつかめないと認めている。
「もし、自分が全然できないことをやらなくてはならないとなったら、きっと苦労するでしょうね。
それはちょうど、ぼくが丸で、無理して四角になろうと頑張るようなものです。
でも、もし、ぼくの丸が他の人には違う種類の四角に見えるとしたら、
もともときっちり決まっているのと違うのだったら、すごく面白いと思う」

このぎこちないたとえを言い終えると、彼は自分から笑いだした。
金城武が大悪人を演じるのを想像するのは難しい。
彼にはある種の自然な善意と素朴さが濃くあり、目を奪うのである。
彼を21年間世話してきたマネジャーのエヴァは、金城武との出会いを1つの幸運と受け止めている。
彼は旧交を忘れず、善良で礼儀正しい。
彼からの電話に出てまず耳にするのは、たいてい、「すみません」の一言である。
少しでも邪魔をするのを、いつも気にしているのだ。
また、友達の誕生日はいつも覚えていて、必ず何かをしてあげなければと思っている。
周りで誰かが病気になると、急いで医者を推薦し、
力を十分貸してやれないのではないかと心配する。

このかん、引き抜きの声がかかると、彼はエヴァに直接どうしようかと尋ねてくるのだった――
縁があってめぐりあい、関係もよいなら、変わらないことも1つの幸福である。
2人はそのように共に何年かを過ごし、共に不惑に近づいて、
金城武はエヴァに、年齢を平然と受け入れるようアドバイスし始めた。
彼自身については、それはもともと問題でなかったようだ。

エヴァは、初めて金城武にあったときのことを今でも覚えている。
口数少なく、しかしその持つ雰囲気には他に抜きん出るものがあった。
そのとき、彼女は思った。
この少年は、きっとどんどん魅力を発揮してくるのではないか。
金城武は彼女を失望させなかった。

俳優になってから、金城武は少しずつ歌手であることを少なくしていった。
デビューしてすぐ「年度十大アイドル」に選ばれ、
90年代初めには台湾「四小天王」にも列せられた。
歌手の仕事は多少無理をしてしていたところがあったけれども、
それでもアルバムの売り上げは一気に10数万枚の記録を達成している。
彼はこのような結果には全く無関心で、自分はただ仕事をしているだけなのに、
どうしてこんなに多くの「してはいけない」があるのか、長い間わからないでいた。
この「芸能界」というところは、一体なんなのだろうと。
今でも、知らない人と会うのが苦手である。
だが、1人の俳優として、別の人間の人格を借り、
大スクリーンで世の中の全てを体験するのである。  (続く)


   BBS   ネタバレDiary   22:45
08月14日(日)
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