ID:23473
武ニュースDiary
by あさかぜ
[6278304hit]
■號外1994年11月号A
後半です。
東京、台北、香港。金城武はこの3つの都市を常に往来する。
台北は彼の生まれた地であり、育った場所である。
3つの都市のうちでは、台北の生活スタイルに一番慣れている。
香港は、仕事の場所なだけ、と彼は言う。
東京は、ひまができると行く(今年だけで、もう2回行っている)。
彼によれば、東京で一番自由を感じられる、屋台で麺を食べることだってできる。
香港、台湾では、不可能なことだ。
それに日本語が話せるので、東京に親しみを感じるのである。
果てしない人の波間に漂い、
自分はただ普通の人間で、全然特別なんかじゃないと感じられる。
(普通の人間は、自分を平凡じゃなくしたがる。
平凡でない人間こそ、もっと平凡になりたいと望むのだ)
であるから、東京で、彼はあちこち歩き回り、人が一番多い場所に行くのだ。
新宿とか、渋谷とか。
金城武は言う。街に出かけるのは嫌い、東京以外では。
また、こうも言う。服を買うのは嫌い、浪費だと感じる。
ああ、そうか。
甘国亮が金城武は他の男性歌手と気質が違うと言ったのは、
おそらくこうした行動の違いゆえなのだ。
思うに、大多数の香港の男性歌手の場合、服を買い、おしゃれをするのは、
彼らの仕事の中で最も重要であり、最もわくわくし、最も得意とすることであるに違いない。
多くの香港歌手の内で、誰が一番好きかと聞くと、
「BEYOND」と彼は答える。黄家強とは親友だったのだ。
私は「恋する惑星」を話題にするつもりはない。
彼の初めての映画であるけれど。
ほとんどの香港で撮られる映画と同様、「恋する惑星」もイメージ第一、
美術が全ての上に来る映画だ。
さらに、この映画の金城武に、私は決して意外な喜びは感じない。
彼はもともとこのくらいの好演はするはずだから。
彼に聞いた。「香港映画界では、誰と一番親しいの?」
彼の答えを、私はひどく訝しく感じた。
彼はアシスタントに尋ねたのである。
「阿BILLの中国名は何だっけ?」「単立文ですよ」
もし、CM出演の依頼がなかったら、CDのレコーディングがなかったら、何をする?
考えたこと、ありません、と彼は答える。
私は、彼はやっぱり歌手か俳優になるだろうと思う。
私の観察では、彼には非常にアーティスト的な性格があるからだ。
それに私は「天分」というものを絶対的に信じている。
彼はCDをレコーディングすることになる前は、音楽に触れたことがなかったし、
楽器も習ったことがなかったと言った。
私はいささか半信半疑である。
撮影はあるホテルのラウンジで行なわれた。
そこには小さな舞台があり、ピアノが置かれていた。
カメラマンが準備している間、金城武はごく自然にピアノを弾き始めた。
彼は何度も私に言った。
習ったことはない、ただ遊んでるだけだと。
しゃかりきにやらなくても、上手にやってのける、それこそが天分だ。
金城武の顔は、人の注目を簡単に引いてしまう――
多分、あの濃い眉、あるいはくっきりした輪郭、またはその日本風なところのせいかもしれない。
典型的な整ったきれいさではなく、どちらかといえば男らしく、人に好感を覚えさせる顔だ。
仔細に見ると、「秋月のごとき美しい顔」「漆を落としたようなつややかな目」
「墨で刷いたかのような眉」といった形容詞が心に浮かぶ。
秀麗さの中に剛毅がある。
(彼こそ「(「紅楼夢の主人公)賈(か)宝玉」の理想のキャストではなかろうか)
「自分のこと、きれいだと思う?」と私。
「考えません。やらなくちゃいけないことをどうちゃんとやるかしか考えてないです」と彼。
それも大変好感の持てる答えだ。
特に、ごく普通の、せいぜいがそこそこの顔の男たちが、
そろって自分を最高にいい男だと思いこみ、
ともすると見た目をたのんで悪いことをしたり、お高くとまったりしている今の香港では。
要するに、若い男が自分の容貌に対し、自信を持っているのがあからさまなのは、
実は大変滑稽であり、反感を買うことさえあるのだ。
[5]続きを読む
03月10日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る