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武ニュースDiary
by あさかぜ
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■夢を追う歳月A
自分は舞台には向かないと思った

話は、1つの「知らない」から始まった。
実は彼は子どものころから、将来何になるか、本気で考えたことがない。
芸能界に入る前は、生活はきわめて単純で、ただの生徒に過ぎなかった。
人生設計などしようともせず、何の心配もしていなかった。
映画が特別好きなわけでもなく、歌を聴くのも好きではなかった。
だから、初めて陳昇のスタジオに行ったとき、
そこにあったCDを手にとり、不思議そうに陳昇に言ったものだ。
「CDを出してるんですか!」
表情が崩れて、自身でもおかしいと思ってるようだった。

ウォン・カーウァイ監督と仕事をするまで、
その名前を知らなかったのはもちろんだ。
「とにかく、この世界のことは全然理解してなかったということです」
と、自分に言うように首を振った。
「昔はね」

それから3年がたった。
自分が公の人物だということを、どう思っているか、聞いてみた。
「わかりません」と考えてから、こう言った。
「最近になってようやく慣れてきましたよ」
子どものような笑顔を見せた。
「どう言ったらいいのかな? ここ数年で1番変わったのは、
成長したことだと言ってもいいんじゃないかと思います」
と肩をすくめた。
「だんだんと、違う角度から物事を見ることを学んだと思います。
それに、自分が本当に好きなことを見つけたから」
いささか抽象的だ。

「じゃあ、こう言います。ぼくがアルバムを出して、どうなりました?」
――売れて、人気者と呼ばれるようになって、
あなたがステージに立つと、大勢のファンがステージの下から声をあげて、
あなたの名前を呼んで、夢中になって、あなたのことが大好きで……。
とらえ難い表情が浮かんだ。
「そういう場面を目にするようになると、とても怖かったし、
どうしてだろうと思いました。この人達は何をしているんだろう、
みんながこんなクレイジーになる、
ぼくのどこにそれだけの価値があるんだろうと思いました」

――それはあなたのルックスがいいからでしょう、
だからみんなCDを買うし、あなたのことを好きになるんじゃないの?
天秤座の不安に揺れながら、納得できる答えを探そうとする。
「ぼくはそうは思いません。
歌がよければ、CDを買う。写真を買いに来るんじゃなくて! 
写真だというんなら、ぼくは写真集を出せばいいわけです」
と首を振った。
「そういう感じ方はとても変です」

だから、デビュー以来、実は彼はふさいだ気持ちで過ごしてきたのだった。
自分の内面と現実の生活とのバランスをとることができなかった。
疲れ、煩わしかった。
――いろんなことがあるから、あなたはもしかして
やりたくないのかもしれないわね。もういやだって。
「そういうふうには考えません」  (続く)


BBS   12:50 

03月29日(火)
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