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武ニュースDiary
by あさかぜ
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■雑誌記事(外灘画報@)
ぼくは彼に苦しめられるのが好きさ」
こう言ったとき、ピーター・チャンは苦笑していた。

役の人物の身分や経歴や背景をつっこんだあと、
金城武は今度は役を深く掘り下げ始める。
「なぜ、彼はこんなに執着心が強いのか?」彼は毎日のようにたずねる。
ピーター・チャンはやむを得ず、2つのエピソードを付け加えた。
徐百九は昔、養父母から金を盗んだ少年を捕まえたが、
情に負けて放してやったことがある。
ところが少年は両親を毒殺してしまった。
また、徐百九は義父が偽薬を売ったのを知り、
人命には関わることはなかったが、彼はあくまで捕まえて牢に送り、
その結果義父は処罰を恐れて自殺してしまった。
このように、金城武に“責め立てられて”、
ピーター・チャンは徐百九の性格を、どんどん豊かに肉付けしていったのだ。

撮影開始後、数日経っても、金城武はまだ、
どうにも解決できないことに頭を悩ませ続けていた。
演技でわかりにくいことは、毎日ピーター・チャンに話しに行った。
「この人はおかしいと思うんです……とても演りにくい……
どうやってもうまく行かないような気がする……」
ピーター・チャンは面倒になって言った。
「なかなかいいよ、よくやれているよ、そういう感じでいいんだ」
どうにもならないことに思い悩むのは、彼の長所であり、
短所でもあると、ピーター・チャンは考えている。

時には、問題は明らかに解決しているのに、
彼がなお自分の論理から抜け出せないでいることもある。
実際は、映画には完璧な論理はない。
映画の論理とは感情の動きであり、
そのキーは、人物と感情が観客を感動させるかどうかにあるのだ。

だから、ピーター・チャンは常々金城武にこう話す。
「君が自信を持ちさえすれば、観客を十分動かせるし、感動させられる。
そんなにかっちりした論理なんか必要ないんだよ」
「これは主演男優や二枚目の共通の欠点で、
彼は自分が北野武になりうるとは信じられないんだ」ピーター・チャンは言った。

7日めになったとき、金城武が四川方言で台詞を言いたいと提案してきた。
ピーター・チャンはちょっと不思議に思った。
「なぜ、突然理解したのだろう」
金城武は四川出身のスタッフに頼み、台詞を1つずつ録音し、それを聞いて覚えていった。
実は、このアイディアは非常に冒険だった。
誰も結果がどうなるか、想像がつかなかった。
森の中のあるシーンで、金城武は子役と芝居をしたが、子役はストレートに彼に言った。
「何を言ってるの? 聞き取れないよ」
その場にいたスタッフの打ち明け話によると、このときは相当の気まずさが流れたが、
しかし、金城武は笑っただけで、辛抱強く演技を続けたという。

彼自身、この雰囲気でOKだと感じており、
演技するときの顔の表情まですっかり変わってしまった。
「俳優は成功すればするほど、他人から型にはめられていく。
金城武はかっこいい男のイメージを取り去ることが絶対に必要だった。
捨て身でやらねばならない。なまりはとても重要だった」
とピーター・チャンは話す。
「四川方言は道具に過ぎない。彼は一つのやり方を見つけ、
それまでの金城武を壊し、自分とは似つかない者に変身した」

映画の中の四川語の台詞はすべて、金城武が自分でアフレコを行なった。
四川語の先生が彼に付き添い、一句一句繰り返し練習したが、
その先生さえ、根気負けするほどだった。
こうして、金城武は徐百九に変身したのである。

プレミアのとき、彼の予想外の一挙一動は観客の心をしっかりとつかんだ。
ある記者は、ピーター・チャンに、「武侠2」を撮るべきだと提案した。
アクションはいいから、金城武の捜査が見たいのだと。   (続く)
(外灘画報 第445期)


   BBS   ネタバレDiary   1:00

08月05日(金)
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