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『日々の映像』
by 石田ふたみ
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■ お産崩壊
 そもそも「飛び込み」で来られても、ベッドは空いていない。都市部などでは、受け入れたとしても、次に救急搬送されてくる妊婦の行き場がなくなり、そして妊婦搬送の迷走が始まるという構図がある。
 「我が国の産科医療体制は、地方、都市部を問わず崩壊の危機にある」。日本産科婦人科学会が先月末までに、都道府県知事への文書でそう現実を訴えた。お産の現場の窮状に、福田首相は1月の施政方針演説で「勤務医の過重な労働環境や産婦人科の医師不足の問題に対応する」と明言するなど、国も重い腰を上げ始めている。


お産崩壊(2)「飛び込み出産」の孤独
(2008年2月7日 読売新聞)
妊娠相談ダイヤルの啓発カードを女性トイレに置き、取りやすいよう工夫している(熊本市内で)
彼・母親・友人…誰にも言えず
 3日昼過ぎ、大阪市内に住む陽子さん(24)(仮名)は女の子を出産した。
 初めて診察を受けたのは先月8日。妊娠34週(9か月)に入り、赤ちゃんはすでに2600グラムに育っていた。
 大阪・ミナミの飲食店で、夕方から翌朝までカウンター越しに接客する仕事をしていた。もともと生理不順で、生理がなくても気に留めていなかったが、昨年秋、下っ腹に突っ張りを感じ、もしやと、妊娠検査薬を使った。陽性だった。
 「産みたい」と思ったが、妊娠を認めるのが怖かったという。交際相手の男性に言えなかった。仲のよい母親にも相談できなかった。病院もどこへ行けばいいかわからない。医者には怒られそうだ。勤め先にも、伝えることができなかった。
 「まだ、大丈夫」「どうしよう」。気持ちは揺れ動いた。客に「太ったのでは」と言われたが、おなかが目立たないよう服で締め、カウンターに立ち続けた。
 奈良県で、妊娠7か月の未受診の女性が救急搬送され、医療機関に受け入れを拒まれて死産したことは知っていた。当時は人ごとだったが、「陣痛が来て救急車で運ばれるのは嫌。どこかの病院に一回は行かなければ」と、焦り始めた。
 昨年末、交際相手に「おなか大きくない?」と言われ、やっと、うち明けることができた。年が替わり、共通の知人の紹介で助産師に会った。区役所で母子健康手帳をもらえることを教わり、助産師の勤務先の病院を紹介してもらった。
 妊婦健診を受けないと、赤ちゃんの異常や早産の恐れがあってもわからない。「未受診は、あなたにも、赤ちゃんにとっても危険なことなの」と言われ、初めて、本当に怖いと思った。
 この助産師は「いまの妊婦さんは、出産にかかわる情報を知らない。伝わっていない」と話す。
 情報を伝えるため、ほかで例を見ない取り組みをしているのが熊本県だ。
 熊本市内の病院で昨年5月、親が育てられない赤ちゃんを託す「赤ちゃんポスト」の運用が開始されたことから、妊娠に関する県の無料電話相談の存在を知らせるための名刺大のカードを20万枚作製。薬局、コンビニ、大学・短大などに配布し、女性が手に取りやすいようトイレにも備えた。
 相談件数は2006年度の72件から、07年度は12月までで170件と急増。対応した看護師や保健師らは「一定の情報提供はできたが、電話をかけてこられない人が心配」と話す。親子・夫婦関係など生活環境にかかわる複数の問題を抱え、妊娠してもすぐ病院に行けない女性は多い。
 東京都内の総合病院で、患者からの生活相談に応じている医療ソーシャルワーカーの女性は、未受診妊婦の支援にかかわった経験から、「未受診になる女性の家庭は、家族関係が希薄」と感じているという。
 例えば、10歳代半ばの未受診妊婦のケース。生理が来ないと悩んでいたが、母親には相談できない。やっとの思いで姉に告げ、姉は母親に伝えたが「あらそうなの」で終わってしまった。家族の中で、肝心な言葉が交わされずにいた。
 「『洋服を買いに行こうか』とは言えるのに、『生理が止まっているの?』とか『太ったんじゃない?』など、本人と向き合わなければならない言葉を言い出せないんです」
 未受診妊婦の飛び込み出産に数多く立ち会ってきた青森県十和田市立中央病院の副看護局長で助産師の山端澄子さん(52)は、最近気づいたことがある。彼女たちがみな、「一人で」駆け込んでくることだ。

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02月10日(日)
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