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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■特に悲しくはない死/『轟轟戦隊ボウケンジャー』最終回/マンガ『観用少女 ―明珠―』(川原由美子)ほか
『キネマ旬報』2月下旬決算特別号を読む。
2006年第80回ベストテンの発表号だから、ともかく分厚い。受賞結果だけは既にウェブで知っていたが、受賞理由や経過など、選考委員たちのコメントを確認するのが毎年の恒例なので、かなり丹念に読んでいる。おかげで、もう何日間も読み続けなのである。
何が疑問って、昨年は『フラガール』に『グエムル』という、まあ駄作とまでは言わないけれども、かなり陳腐で冗長なところのある2作が、あろうことか日本映画の1位と外国映画の3位にランクされてしまったという、こりゃいったいどういうわけだと首を傾げて三回転半はしなきゃならない状況が生じてしまっていたので、そのへんのところを探ってみたいと発売を心待ちにしていたのである。
さて、得点表を仔細に見てみて驚いた。
日本映画の選考委員は60人。そのうち、『フラガール』に投票したのは40人。しかし、10点満点を入れているのはわずかに2名しかいないのである。
それに対して、2位の『ゆれる』の投票者は35人だが、そのうち1位に挙げているのは7名、3位の『雪に願うこと』は31人中6名、4位の『紙屋悦子の青春』は30人中7名、5位の『武士の一分』も30人中6名と、軒並み『フラガール』よりも1位率が高い。
実は「1位に選出した選考委員の数」だけで集計すれば、『フラガール』は同率7位にまで後退してしまうのだ。
要するに合計点数方式の落とし穴というやつで、ベストワンじゃないけど、一応ベストテンには入れておこうか、という判断で得点した作品が、集計してみたら1位になっちゃってた、という現象なのである。
『グエムル』もまた、同じように細かく点を稼いで、3位にまで上昇しているのである。
そもそも、プロの批評家であっても、決して対象作品を全て見ているわけではない。それなのにベストテンを選ぶこと自体、無意味なことなのだ。だからどんな結果が出ようと泰然自若としていればよいのだが、やはりどうしても納得しがたい思いに苛まれないではいられないのである。
傑作とは言いがたい映画が、いかにも傑作であるかのように喧伝されてしまうというのは、映画界全体にとって不幸な事態を招くことになりはしないか。
1位、2位に『フラガール』を推している選考委員のコメントも、腑に落ちない。
石上三登志は「映画的に巧い」と記しているが、困った事態が生じるとタイミングよく救いの手が差し伸べられるご都合主義のどこをどう評して「巧い」と言えるのか。
襟川クロは、コメントで「アニメは『パプリカ』『鉄コン筋クリート』『ドラえもん』が最高」と書いていながら、ベストテンには一本も入れていない。アニメはまるで映画ではないとするような偏見のある態度は、既に映画を批評する資格自体がない。
大森望は「娯楽映画の王道」とまで言い切る。貧乏臭い映画が王道であったために日本映画が衰退してきた事実を認識していないのだろうか。
角谷優は「変わりゆく産業構造の背景をきちんと踏まえた娯楽作」と語る。しかし、全国的には常磐ハワイアンセンターの成功に倣ってアミューズメント施設を立ち上げ、逆に失敗した例の方が圧倒的に多いのである。九州でもネイブルランドは廃墟と化したし、スペースワールドだっていったん破綻している。成功例だけを取り上げている我田引水な映画を「背景をきちんと踏まえた」と評するのは笑止である。
木村啓子の「直球勝負で心に迫った」などは、変化球の映画は評価されにくいということか、と映画作家の努力を考慮していないかのようにすら聞こえて、暗澹たる思いにさせられる。
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02月11日(日)
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