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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■『イッセー尾形のつくり方2006in博多』ワークショップ」九日目/続・発表会本番! LOVE IS FOREVER(笑)
 1回目の芝居に何の自信も持てないまま、第2回目の時間が迫ってきた。

 セイノさんと入れ替わり、子供役の本キャストのTさんもやってくる。だいたいの流れを説明するくらいしか、時間はない。
 「ともかく、思い切り、駄々をこねてください」
 それだけだ。

 第2回目の出番。

 Tさんのハジケぶりは凄かった。
 何を買ってほしいのかは分からないが、「買うて買うて!」と、ヒキツケを起こしてるんじゃないかというほどにTさんは舞台の上でのた打ち回った。
 そのものすごさは、とても言葉では表現しきれないが、セイノさんの演技が「買うて買うて!」程度だとすれば、Tさんのは「買うて買うて買うてえええええ! 買うてええええええ!」くらいに違う。
 彼女の演技だけで客席に笑いが起きるが、それも当然だろう。
 それなのに、その後ろで私とKさんの夫婦、おばちゃんのオカダさんはどこ吹く風と関係ない会話や喧嘩を繰り返している。
 舞台にいても、この喧嘩が殺伐なものではなく、「この家族のいつもの日常的な風景」であることが分かる。

 その時になって、気が付いた。

 さっき、セイノさんがバタバタしていた時に、私は思わず立ち上がって夫婦喧嘩を始めた。
 けれども、今度は立てない。それくらい、Tさんの駄々は、猛烈なのである。
 後ろにいる私が興奮して立ち上がれば、この芝居を壊してしまう。
 さっきは、セイノさんの駄々が弱かったので、それを助けるためには立たないことには仕方がなかった。
 けれども、同じシチュエーションでありながら、今回は全く別の芝居になっている。主役は喧嘩をしている私たちではなく、完全に駄々をこねているTさんになっているのだ。
 喧嘩はしていても、私たちは動いてはいけない。
 そう気がついたのだ。

 イッセーさんが絡んでくる。
 「おたく、布団買った? あれ、事件の証拠品だって」
 Kさんが「いいえ」と答える。
 Tさんがアドリブで仕掛けた。
 「ウソやん、買うたやん」
 私が「言うな!」と叫ぶ。
 オカダさんが「どうしよう、私、あの上でしかぶったばい」と“おろたえる”。
 それで前回とは違った「落ち」がついた。
 1回目より、2回目の方が、より面白くなった。
 それがはっきりと分かった。

 もし私が、自分のために舞台に立とうと考えていたとしたら、この機微はつかめなかったと思う。
 イッセーさんが先日のNHKの取材に答えて、「みんな舞台の上では孤独なんだけれど、孤立してはいないんですよ」と仰っていたことが実感できた。
 私は今、妻であるKさん、娘であるTさん、おばちゃんであるオカダさんのために、ここにいるのである。


 他の出演者の方々のシーンに、全て触れる余裕はないが、いくつかだけ触れておこう。

 8番、「都会から来た嫁」は、1回目では声が素に戻りかけていたあきこさんが、見事にキャラクターを取り戻していた。
 「前のお年寄りにちょっかいかけてよ」という森田さんのダメ出しに従いはしたが、ここであきこさんはアドリブで「あんたたち誰ね!?」と言い放った。
 つまり、誰だか知らないが、どこかのお婆さんたちが、勝手に家に上がりこんだ、という状況に変わってしまったのだ。
 森田さんは、「この社宅には知り合いでない人間は誰もいないからね」と言っていたのだが、その前提を覆す発言である。

 正直、私はハラハラした。
 公演後の最後のダメ出しで(明日の公演がなくてもダメ出しはあるのだ)、森田さんに何を言われるか、あきこさんはもしかしたらこの場で泣きだすのではないかと思った。

 公演終了後の「交流会」で、森田さんが口を開いた。

 「うまく芝居ができたとかできなかったとか、そんなことは関係なく、ともかく自分が前に出るんだと。ここにいるのはみんな知り合いだという前提を崩してまで『あんた誰ね』と言い放っていると。貶してるように聞こえるかもしれないけれど、これまで引くことしかできなかったこの人が、前に出ようとした、このことがワークショップの成果だと思うのね」


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11月18日(土)
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