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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■フォーチュン弁当/舞台中継『イッセー尾形 夏目漱石を読む!書く!創る!』
朝と言うか、深夜、NHKBS2の『深夜劇場へようこそ』枠で、演出家・森田雄三さんのインタビューに引き続き、スイスの演劇学校で行われたワークショップを基にした舞台『イッセー尾形 夏目漱石を読む!書く!創る!』を見る。
森田さんが鈴木裕美さんや林あまりさんの質問に答えてこれまでの経歴を語られるのだが、「串田和美の演出に反発してね」とか、イッセー尾形さん以外のキャストと組んで作った『マクベス』(山崎努主演版)について、「発声練習しているの見てると『アナウンサーになりたいの?』って言いたくなるんだよね」とか、サラッと仰るので、「そんなに正直なことを喋ってもいいのかなあ」と、見ているこっちがドキドキしてくる。
なんだか怖いものなしと言うか、「七十而従心所欲、不踰矩(しちじゅうにして、こころのほっするところにしたがへども、のりをこえず)」って印象。もっとも森田さんはまだ七十歳にはまだ間があるけれど。
まあこんな凄い方を目の前にして、抜け抜けと演技とも何ともつかぬ小芝居を偉そうに披露していたのだから、今更ながら自分の臆面のなさには恐れ入る。馬鹿はこれだから怖いよねえ。
ワークショップのことにもちょっとだけ触れられていて、「小学生が来るんだよ」って笑って仰っていたのが笑えた。だって「年齢、職業、舞台の経験、未経験問わず」って謳ってるんだもん、小学生だって来るさあ(笑)。
引き続いて、実際の舞台を見たのだが、始まった途端に、テレビの前で凍りついてしまった。何とも困ったことに、森田さんの演出を台無しにしてしまうような放映形態を取っていたのである。
スイスのワークショップであるから、当然出演者の大半は外人さんである。インタビューでも森田さんが仰っていたが、「何を喋ってるのか、サッパリ分からないんだよね。だからイッセーさんと『あれはこういうことを喋ってるんだろう』と想像するんだけれど、あとで本当に何を喋ってたのか聞いてみるとこれが全然つまらないんだ。こちらが勝手に想像してることの方が面白いのね」ってな具合で、何を喋っているのか分からない面白さというものを演出しているのである。
ところがNHKの大馬鹿野郎は、見事にその演出をぶち壊してくれた。つまり、外人さんの喋りに、全部「字幕」を付けてくれたのである。漱石(を模してるんだが、スイスまで漱石は洋行しちゃいないので、実は誰だって構わない)との間のディスコミュニケーション、これが台詞が分かっちゃうとただの「説明」としてしか機能しなくなる。果たして会話が成り立っているのかいないのかすら分からないスラップスティックな味わいが、全て消し飛んでしまっているのだ。
舞台は、テレビ映像に移された途端にその魅力が半減してしまうものだが、このNHKの「親切」はそれをさらに助長することになってしまっている。この『深夜劇場にようこそ』は、シアターチャンネルに入っていない演劇ファンにとっては、唯一のオアシスのような時間枠だというのに、こんな粗雑なことをされちゃあ本気で困るのである。
しようがないので、あえて字幕を見ずに中継を見て行ったのだが、そうした途端に外人さんたちのセリフは殆どハナモゲラ語と化し、まるでバカボンパパの家にバカ田大学生の後輩たちが大挙して押し寄せたかのごとく、何が起こるか分からないナンセンスの極みとでも言うべき珍妙な舞台が展開して行ったのである。
多分、実際の舞台では、字幕は全く流れなかったのではないかと思う。そうでなければ、あの舞台は成り立たない。やっぱり舞台はナマを見に行かなきゃしょうがないよなあとつくづく感じたことである。ビンボーでなかなか舞台を見に行けない、テレビで我慢するしかないと仰る方は、舞台中継を見る時は、その面白さを想像力で三倍増しして見るようにしましょうね。これは別に私だけが言ってることじゃあなくて、常識と言っていいことなんだけれども、舞台の批評は、決してテレビ中継を見て行っちゃいけないのである。
家事をサボリまくるしげが、何とか毎日用意してくれているのが昼の弁当である。
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10月03日(月)
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