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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■伝わらないことばかりだけれど/『金魚屋古書店』2巻(芳崎せいむ)
 身体の具合が悪いのなんのと言って、いくら言っても家事をサボりまくり、そのくせ、夜中になったら私の眠った隙を突いて、買い食いしにコンビニに出かけまくっていたしげであるが、昨夜は結局、私の制止するのを無視して外に出て行ったので、さすがに腹に据えかねて、本当にしげを外に締め出した。
 買い物からるんらるんらと帰って来て、鍵がかかっているのを知って、ようやくしげは私が本気で怒っていることに気が付いたのだろう。インターホンのボタンを何度も鳴らすのだが、私は極力無視である。
 自分がどうして締め出されたのか、ここんところのワガママぶりを自覚できているなら、ボタンを押すことだってはばかられるはずである。それを遠慮もなくピンポン押しまくっているのは、何一つ反省できていない証拠だ。こんな風に何も考えていないからこちらは腹を立てているというのに。
 いつまでもボタンを押すのをやめないので、仕方なく受話器を取ると、か細い声で「ごめん」と言う。でもそれだけで、あとは何も言わない。こちらも沈黙したままだ。
 口ではいつも「ごめん」と言うのだが、しげがそれで反省したためしはない。こんなふうに締め出されたのだって、初めてのことではないので、もう何度も「謝るんなら行動を改めろ」と言ってきているのだが、次の日にはもうそのことを忘れているのである。
 どうして自分が怒られているのか、何をどう反省したらいいのか、それを話さない限り、私は絶対に中に入れてはやらないのだが、にもかかわらず「ごめん」としか言わないのは、実際、反省するつもりなどまるでなく、何も考えていないからだ。おかげで腹立たしさはますます募った。
 「謝るんなら、『ちゃんと家事をします』ってどうして言えんの?」
 「ちゃんと家事をするから」
 「さっきまで一言も言わなかっただろ!? オレが言ってから言っても遅いよ! どれだけ俺が待ったと思ってるんだ!」
  実際、すぐに反省していれば、そこで家の中に入れるつもりでいたのだ。もう何百回とそのことは伝えているのに、こうして締め出された途端に反省の言葉を忘れてしまうのだから、やはりしげは頭がおかしいのである。もう何十回、何百回、家事をしろと言い続けて、ちゃんとすると約束させられて、それを裏切られてきたことか。病院に通わせても睡眠時間が増えるばかりで何の効果も上がっていない。私は本当に疲れてきているのである。
 頭のおかしい妻を真夜中に追い出すなんて、なんてドメスティック・バイオレンスな夫だと思われるだろうが、しょっちゅう真夜中に愚図って私を起こす夢遊病の妻と一緒にいたら、こっちだって神経がおかしくなる。私は夜は普通に眠りたいのだ。さすがに今日は、こっちの怒りなんてどこ吹く風の糞馬鹿女が傍にいたら、私の神経が持たないと思ったから追い出したのである。これは自衛である。
 「ちゃんと言うこと聞くから入れて」
 「ちゃんと言うこと聞くなら入れてなんて言うな。ともかくもう今夜は入れない。寝たいなら車で寝ろ」
 そう言って、受話器を切って、後は一切、出なかった。しげもようやくあきらめて、すごすごと立ち去ったようである。これがだいたい夜中の3時。玄関前で押し問答し始めてから、1時間くらいは経っていた。
 そのあと、私は疲れて、泥のように眠った。しげが傍にいたら、また夜中に愚図って、私は眠れなかったことだろう。もちろん、そのときには鍵は開けておいたので、朝方にはしげは部屋に戻ってきていたようである。
 ところが、朝になってくたびれて寝ていた私をしげはまた何も考えずに「『ゾロリ』始まるよ、見らんと?」と無理やり起こしてきたのである。
 「だからお前のせいでここんとこ寝不足なんだよ! そのことなんべんも言ってるのにわからんのか!?」
 分かんないやつに分かってくれと語ることほど空しいものはないが、分かんなきゃ本当に出てってもらうしかないんだから、いい加減で分かってくれよ。


 しげをどやしつけて、昼過ぎまで寝る。
 『仮面ライダー響鬼』だけは録画予約しておいたので、後からゆっくり見るつもり。
 目が覚めたら、もう1時過ぎだった。どうせしげはまともな食事の用意なんてしてないので、レトルトカレーを作って食べる。


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10月02日(日)
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