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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■舞台『イッセー尾形とフツーの人々 北九州編』第二日目
 集合は11時と昨日と同じだが、今日の公演は昼公演なので、リハーサルを行う余裕はない。所用で出演できないキャストが増えて、新しくコンビを組んだチームを舞台に上げて、森田さんのダメ出しが入る。つか殆ど檄を飛ばしているようなものだ。
 出来のよかったスケッチを中心に全体構成を考えていたのに、その肝心の主要キャストが今日は欠席ということで、森田さんも愚痴と檄が同時に口から出る。
 「新宮の時も、一日目出てた役者が急に二日目来なかったんだよ。それも一言の連絡もなく」
 けれどそれは愚痴ではあっても弱音ではない。再びギリギリまで詰められていく森田演出。激昂して椅子を叩き、手が痺れて再び演出をイッセーさんに交代するのも昨日と同じ。イッセーさんも「ここまでかな」と、諦めたような声が漏れる。
 これがちょっと私の癇に障った。イッセーさんの心情としては、ついそんなことを言いたくなる気持ちもよく分かる。所詮、我々はただのシロウトだ。そのシロウトがたった四日間でどこまで「完成」の域に達することができるというのだろう。「ここまでしかできない」ことは当たり前であるし、それを承知でシロウトに門戸開放したのは他ならぬ森田さんとイッセーさんではないか。
 「ここまで」と言われた人は私ではない。そう言われた人も、そんな言葉くらい跳ね除けて舞台に立ってもらうくらいの気概はなければ困る。それでもこの時、私は何となくむかっ腹を立てていた。
 でもそれで吹っ切れた。

 二日目の幕が上がった。
 冒頭シーン。倒れている中年女性と泣いている女の子。呆然としているサラリーマン風のイッセーさん。それは昨日と全く同じ風景だ。
 けれど、集まった七十人の態度が違う。昨日より、誰もがイッセーさんを「憎んで」いる。ツッコミが昨日よりも激しい。イッセーさんの狼狽振りも昨日より弥増した。
 あとで、公演終了後の挨拶で、反省会の席で、イッセーさんは仰った。「たった一日で芝居がこんなに膨らむものなのか」「一番イヤなタイミングで、一番イヤな言葉を投げかけてくる。舞台を降りたあと、掌に汗がにじんでました」と。
 多分、その一番イヤなセリフをイッセーさんに投げつけたのは私だ。

 今日、私は、昨日受けなかったネタをしきり直した。笑いが起きる。けれど反省会で森田監督は「これから先が芝居なんです」と仰った。その通りである。私はまだスタートラインに立って、構えてみただけなのだ。

 今日の公演はよしひと嬢とお母さんが見に来てくれた。一緒に食事をしながら、今日の芝居の感想を聞く。よしひと嬢は「楽しかったですよ。意味が分かんないところもありましたが」との感想。
 演技下手で意味不明になったシーンももあったようだけれど、その「わかんなさ」が我々シロウトの演技を上手く誤魔化してくれていることなのである。          
09月18日(日)
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