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無責任賛歌
by 藤原敬之(ふじわら・けいし)
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■カウンセリングもプラシーボ/『ニッポン硬貨の謎 ―エラリー・クイーン最後の事件―』(北村薫)
 金曜日はしげの通院の日。 
 以前は朝早く、診療時間が始まると同時くらいに出向いていたのだが、最近はカウンセラーさんの都合だとかで、午後の診療に変わっている。
 しげはカウンセリング用に毎日日記を書かされていて、これはウェブ上にもアップしていないヒミツ日記なのだが、私は一応読ませてもらっている。ウェブ上のそっけない日記と違って、本音を素直に書いているせいか、文体が妙にかわいらしいのだが、書いてある内容は映画や演劇に関することが殆どである。カウンセラーさんからも「旦那さんのこととか殆ど書かれないんですね」と言われてしまったそうだが、家庭的なことはしげにとって「日常」ではないのかもしれない。
 しげの話によれば、カウンセラーさんは映画好きで、30分間のカウンセリングタイムも殆ど映画の話ばかりになるそうである。引っ込み思案のしげも、芝居や映画の話ならば楽しそうに話す。今日も心理劇の話などをして楽しかったそうなのだが、突然、「通院はこれから二週間に一回にしましょうか?」と相談されたのだそうだ。
 しげは「それってつまり、病気が治ってきたってことなのかなあ?」と訝んでいる。確かに、薬のおかげで睡眠時間も調節できるようになったし、ヒステリーを起こす回数も随分減っている。この四月からは昼の弁当も作ってくれるようになったし、晩飯もまあちょっと乱暴なメニューではあるが(今晩は鶏もも肉の丸ごと煮なのだが、実はこれがもう一ヶ月以上続いているのである)、作ってくれはするようになった。
 しかし、洗濯などのほかの家事にまではまだまだ気が回らないし、それよりもパートの仕事などは全く続かなくなってしまっているのである。仕事自体が嫌いなわけではないのだが、ともかく「仕事に出かけて行く」行為自体ができなくなっている。社会人としては当然喜ばしい状態ではない。トータルで見ると、進歩しているのか退歩しているのか、本人にもよく判断ができないでいるのだ。
 「治ったって思うほうが治るのかなあ。カウンセラーの兄ちゃんには『自分で決めてください』って言われてるんだけど」
 カウンセラーさんにそう言われているのなら、私も「自分で決めろよ」としか言えない。どういう意図で診察回数を減らそうと言われたのか、もう少し事情を知りたいのだが、そういう肝心なところをしげは聞き損なっている。やっぱりまだそれほど治ってはいないのにあえて回数を減らすことで自立の道を図ろうというのか、それとももともと完璧に治るものでもないのだからこのくらいでまあいいかと気楽に考えようよってことなのか、プラシーボ効果を狙っているのか、ただ単に治療を諦めちゃってるのか、よく分からないのである。どうなっていくんでしょうね(って他人事じゃないだろ)。


 FBSで、金曜ロードショー夏恒例の『ルパン三世 天使の策略(タクティクス)〜夢のカケラは殺しの香り〜』を見る。
 TVスペシャルシリーズもついに17作、故・山田康雄がルパン三世の声をアテていたのは第6作の『燃えよ斬鉄剣』までだから、10代のファンにとっては、栗田貫一の方がもうルパンの声として定着してしまっている。つか、「山田康雄って誰?」って発言を実際に10代のやつから聞いたこともあるのだ。
 いや、栗田さん以外のレギュラー陣の声、とてもじゃないがすっかり衰えてしまっていて、聞けたものではない。数年前までは納谷悟朗さんが一番滑舌が悪くて、よく聞き取れない台詞も多かったのだが、もう本作では小林清志、井上真樹夫、増山江威子、どう贔屓目で聞いてもみな年寄りの声にしか聞こえない。もしもシリーズを本気で続けて行くつもりならば(世代的にはもうルパン五世でもおかしくはないのだが)、『ドラえもん』よろしく、完全リニューアルを考えてもいいのではないかという気さえしてくる。いや、もう潔く一度「完結」を考えてもいいのではないか。
 というのも、最近ファンになった若い人はともかく、それこそアニメ旧シリーズ第1作(1971年!)をリアルタイムで見てきた世代から見れば、もう語られるべき物語のアイデアは底を尽いているとしか思えないのである。

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07月22日(金)
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